2018.07.07_東京タワー水族館_水族館で『魚を飼う』を考えた

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■日本広し、水族館は数あれど。

世界でも有数の水族館大国、日本。大小合わせれば、一説には100以上もの水族館がある、との統計もあるそうです。

それだけ水族館があれば、当然、館ごとにコンセプトもさまざま。
「ショーがすごい!」「世界最大規模!」「デートに最適!」なんてとこから、「淡水魚しかいない」「深海魚ばっか」「クラゲなら任しとけ」、はたまた「フグ専門」「メダカ専門」「ハゼ専門」なんてエッジの利いたところまで。

(ここもなかなかエッジが利いてますね……。おたる水族館。)

今回訪れた「東京タワー水族館」は、そんなバラエティに富んだ日本の水族館の中でもほとんど唯一無二、孤高の存在、と言っていいほど個性の際立った水族館です。

■コンセプトは「観賞魚専門」!

東京タワー水族館のコンセプトは、ズバリ「観賞魚」。

「海水魚」のコーナーには主に熱帯性の海水魚が。
そして館内の大半を占める淡水コーナーは大陸ごとに「アメリカ」「アフリカ」「アジア」と区分けされ、世界各国のいわゆる”熱帯魚”が、これでもかとばかり展示されています。

「アメリカ大陸」のコーナー。
センターの水槽にはメチニス類やアイスポット・シクリッド、
その奥にはたくさんの種類のピラニアなど、南米の魚がズラリ。

■「観賞魚専門」には理由がある!

東京タワー水族館の開館は1978年。

当時、東京タワー内にオフィスを構えていたコンピュータ・ソフト会社の社長さんがタワーの管理会社から相談を受け、趣味の熱帯魚飼育を生かしてオープンしたのだそうです。

とはいえ、もともと水族館専用に建設されたわけではない東京タワー。
建物の強度の問題もあり、イルカを飼ったりペンギンを飼ったり、なんてことはできません。結果、このような「中~小型の水槽をズラッと並べて熱帯魚を展示する」というスタイルになったのだそうです。

こちらは「アフリカ」のコーナー。
モルミルス(エレファント・ノーズの仲間)にシノドンティス(サカサナマズの仲間)、アフリカンシクリッド、肺魚にポリプテルス……、マニアックなメンツがずらり!

エレファント・ノーズ。
都内だとサンシャイン水族館のアフリカ淡水水槽にもたくさんのモルミルスがいるけれど、東京タワー水族館の個体のほうがはるかにプリプリと太って状態が良さそうです。
餌の時間になると一斉に泳ぎだす姿は壮観!

ネオランプロローグス・ブリシャルディ。
水槽内でしっかり殖えていて、たくさんの稚魚を守る姿を観察できました。ヒレがピンッと張った見事な親個体!!

■「熱帯魚屋さんみたい!」と言われることしばしば。

ほとんどの水槽がオーバーフロー式を採用した2段水槽になっていて、2段目の水槽は少し見づらいけれど、かなりマニアックな魚種がさりげなく泳いでいたりします。

エンドラーズ・グッピーが泳ぐアクアテラリウム。

ところで、東京タワー水族館に遊びに行くとよく聞くのが「なんか、、、熱帯魚屋さんみたい」という感想。Twitterあたりで検索しても似たような感想をちらほら見かけます。

確かに、展示されている魚種はいわゆる「熱帯魚」ばかりだし、3段4段に重ねられた水槽群は大型量販店のアクア・コーナーを彷彿とさせます。

そして「熱帯魚屋さんみたい」というコメントに、ややネガティブなニュアンスを感じてしまうこともしばしば。

■「熱帯魚屋」は「水族館」より格下なのか??!

という議論もしたくなるのだけれど、水掛け論になりそうなので、まぁそれはさておき。

■実際に熱帯魚を売っていた、昔の「タワ水」。

そんな水掛け論は、大して意味を持たないのかもしれない。
なぜなら、昔の東京タワー水族館は、本当に館内で魚を売っていたから。
これは、20代後半以上くらいの水族館好き/熱帯魚好きなら、覚えている人も多いかもしれませんね。

「水族館で、魚を売り物にしていいのかよ!」なんていう批判も、当時はけっこう目にしたように思います。あと「熱帯魚屋のくせに入場料を取られる」なんて声も。

■「魚を見る」→「飼ってみたい」→「その場で売ってる」
って素晴らしくない?

確かに、当時のタワ水って、水族館なのか熱帯魚屋なのか微妙な立ち位置だったことも事実。

水族館の脇には販売専門のブースが併設されていてマニアな客がたむろしていて、メインの水族館のほうも多くの魚に値札が貼られていて、逆に解説パネルなんてほとんどなかったし。


(今のタワ水の解説ボード、手描きのイラストメインで可愛くてとても好きです)

けれど「水族館で魚を飼える」って、そんなに批判されることだったのか??
個人的には、むしろ日本のアクア業界に足りない要素がぎゅっと凝縮された、魚好きにとってのパラダイスだったのではないか、とすら思います(懐古的ですね)。

例えば親子連れでふらっと東京タワーに遊びに来て、入場料をケチったお父さんが販売コーナーに子供を誘導して(実話。俺が小3の時のウチの親父です)、そこでうっかりアリゲーター・ガーのベビーなんか見ちゃって「こいつカッコイイ!ねぇお父さん!飼いたい!これ飼いたい!」なんて騒いじゃったりして(小3の時の俺です)。

あるいはカップルでふらっと東京タワーに遊びに来て、展望台で夜景見るには時間が早いから水族館でも行くかなーなんつって、そこでうっかりレッドテール・キャットのベビーなんか見ちゃって「やだー可愛ぃー!ねぇ〇〇クン、これ飼おうよ!」なんておねだりされちゃったりして(高2の時の俺の彼女です←これは嘘)。

そんなときにふと見ると、向こうのほうの大水槽に……
デデーン。

っと、幅3mの大水槽でも狭いくらいに大きく育ったアリゲーター・ガーやレッドテール・キャットの成魚が泳いでいるのです。
コレを見て、それでもなおガーのベビーを衝動買いする人というのは、そうそういないのではあるまいか。逆にコレを見て「この水景を自宅でも味わいたい!」と本気で思った人だけが買うことを許される魚、それがこれら大型魚なのではなかろうか。
(実際に当時のタワ水では、大型魚の飼育を検討する人が水族館内で実物を眺めながら飼育スタッフの方にアドバイスを受けたり、あるいは無茶な衝動買いをしないよう諭されたり、という姿を時々目にしたものです)

ガーパイクが特定外来生物になり飼育を禁止されて、それでもなお観賞魚由来の外来魚放流が後を絶たないこの国のアクア業界。
決定的に足りないのはモラルと想像力、そして「コレがデカくなったらアレになるよ」という実体験だと思うのです。実際に店内で成魚サイズのレッドテールキャットを飼育してる店、日本に何軒ありますかね???

当時の東京タワー水族館が「水族館のくせに魚を売るな」と揶揄されながらも担っていたのは、そういう役割なんじゃないかと思うのです。

■「魚を飼う」ことに真っ直ぐな姿勢。それは今でも。きっとこれからも。

今ではもう、生体販売をしていない東京タワー水族館。

それでも「観賞魚専門」というポリシーは、太く鋭く、これからもずっと貫いていってほしいなぁ、と思うのです。

世の中の水族館は「水塊」ブームで、どこに行っても綺麗に整った水景を楽しむことができる。あるいは、水族館に「教育」とか「研究」というテーマが昔より遥かに求められるようになって、そういう真面目な展示をあちこちで目にするようになった。

個人的にはそういう「お勉強要素」の強い水族館って大好きです。葛西しかり、アクアマリンしかり。

ただ、子供の感受性ってもっと単純でプリミティブで、たとえばでっかいフグを見て「うおー、やべー!オラもこんなカッコ可愛い魚、いつか家で飼ってみてー!」とかだったりするわけです。
そうやって「魚を飼う」ということの楽しさに目覚めた少年が大きくなって、水産研究の道に進んだり、水族館で働いちゃったりなんかもして。(少なくとも、自分はそうだった)

だからこそ東京タワー水族館には「観賞魚を飼う」ってことの楽しさや面白さを、これからもずっと発信し続けていってほしい。(きっと、こんな水族館をこれから新設で作ることは、たぶん無理だと思うので。)

立派な大水槽がなくたって、ショータイムがなくたって、研究活動や教育プログラムに取り組んでいなくたって。
「観賞魚を飼う楽しさを、来た人に伝える」。
それだって立派な「水族館の果たす社会的意義」だと思うのです。

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