水族館で「フラッシュ撮影」って結局アリなの?ナシなの?

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■きっかけはあの深海ザメ。

冬は深海魚の季節。(※)

暖冬と言われる今年の冬ですが、それでも今年も全国各地で珍しい深海魚が見つかってあちこちの水族館で展示されています。

そんなある日、水族館好きたちの間で広まったニュースがこちら。

水族館の深海魚をフラッシュ撮影した写真が大手紙ウェブ版ニュースに掲載され、悪影響が出たのではないかとの疑問や批判がネット上で相次いでいる。この深海魚は、撮影翌日に水槽内で死んでいた。その原因について、水族館の飼育員に話を聞いた。元々「水槽では、数時間から1晩、長くて2、3日」鋭く細かい歯が並ぶ大きな口を開け、いきなり水...

和歌山県・串本海中公園水族館に持ち込まれた深海ザメ・ラブカ。
それを取材した某新聞社の記事の写真が「え、これ……フラッシュ焚いてない??」となり、当のラブカが翌日死んでしまったこともあり、ネット上で炎上。

この件を発端にSNS上で「水族館でフラッシュ撮影ってどうなの??」という議論が活発化しました。”カメラ好きかつ魚好き”な自分としても、「水族館でのフラッシュ撮影」については個人的に以前からいろいろ思うところはありましたので、この際に考えを纏めておこうと思います。

(※「冬は深海魚の季節」の理由:
冬は海水温が下がり、もともと冷たい海に住む深海魚が表層近くまでやってくることが多くなる。また陸上も気温が下がり、捕獲された深海魚が温度差によるダメージを受けにくいことから、深海魚が生きたまま水族館に運び込まれることは比較的冬が多い)

■そもそも「フラッシュ撮影」って、水族館では禁止なの??

今回のラブカの件に限らず、Twitter上ではたびたび話題になる「水族館でのフラッシュ撮影」。基本的には否定派の意見を多く目にするのですが、そもそも水族館でフラッシュ撮影は禁止されているのでしょうか??

きちんと統計を取ったわけではないですが、結論から言うと
「フラッシュ撮影:全面禁止の水族館もある。
一方で、部分的にOKとしている水族館も多い。中には全館フラッシュ撮影OKという水族館も。」

というところかな、と思います。

「水族館とフラッシュ撮影」という話題では、数年前にこんな事例も。

全国の水族館では、カメラのフラッシュをどう扱うかについて、各館で対応が分かれている。魚への影響を巡って考え方に違いがあるからだ。ゴールデンウィークに入って、マグロの激突死映像がツイッターなどに投稿され、フラッシュの影響なのかどうかが関心を集めている。巨大なジンベイザメが泳ぎ去ると、突然1匹のマグロが猛スピードでこちらに...

沖縄・美ら海水族館で「フラッシュ撮影によってマグロが激突死した!」と話題になった件。実際にはフラッシュ撮影との因果関係ははっきりしないのだけれど、当時も似たような議論がSNS上で活発になりました。

<フラッシュ撮影OKとしている例:美ら海水族館>

この美ら海水族館では、一部の水槽を除きフラッシュ撮影OKとしています。以下、公式HPより一部転載。

飼育生物に対するフラッシュの影響について

光による刺激は生物に対して影響を与えることがあります。当館では、フラッシュ光がアクリル面での反射、および水中透過時に減衰することから、安全性を確認した上でフラッシュ撮影を可能としております(一部の水槽を除く)。

水族館内での撮影は自由ですか? 個人的な写真撮影であれば、他のお客様のご迷惑にならない範囲(大きな機材で場所を占有しない等)での...

※美ら海にはかれこれ10年以上行けていないのだけれど、確か深海生物の水槽がフラッシュNGだったかな……?(違ってたらご指摘ください)

生物に対する影響にも言及し、アクリルガラスによる反射や水中での減衰も考慮したうえでの「フラッシュ撮影OK」という判断のようです。

<フラッシュ撮影NGとしている例:葛西臨海水族園>

一方で、マグロ飼育で有名な葛西臨海水族園では、以下リンク先のとおり館内でのフラッシュ撮影は一切禁止。(AF補助光も禁止と明言してあるのが良いですね!)

葛西臨海水族園に関する、よくある質問をまとめたページです。

こんな風に、水族館によっても見解・ルールが異なる水族館でのフラッシュ撮影。「**水族館ではOKだったのになんでこっちではダメなの??!」なんて混乱も生まれてしまいそうですし、実際にフラッシュ撮影NGの水族館でも「うっかりフラッシュ」を焚いてしまう場面は時々目にします。

個人的な結論から言うと、

「水族館でのフラッシュ撮影は、場合によっては有効な撮影技法にもなりうる。」
「ただしその条件は非常に限定的なので、基本的には“水族館ではフラッシュNG”とするのが合理的だろう。」

と考えています。

以前は「水族館でフラッシュ撮影なんて、ダメ!絶対!」という考えだったのですが、某水族館の方から「外付ストロボを適切に使えば、今までとぜんぜん違う水族館撮影ができるよ!」と言われたことが過去にあり、その話を聞いて以来いつか試してみたいという風にも思っています。(実際に、アクア雑誌の撮影でプロのカメラマンが水族館で魚を撮る場面に遭遇したことがありますが、外付ストロボやアンブレラを上手く使いながら撮影していました)

以下、上記結論に至った理由を「魚好き」かつ「カメラ好き」という両方の側面から説明していきたいと思います。

■フラッシュ撮影のメリットとデメリット

ここで、ぼくの考えるフラッシュ撮影の「メリット」と「デメリット」を纏めておきます。

なお、カメラ用のフラッシュ/ストロボには大きく「内蔵フラッシュ」と「外付ストロボ」がありますが(厳密にはもっと細分化されますが)、ここでは一旦すべてひとくくりにして整理します。

フラッシュあり

フラッシュなし

メリット ・十分な光量を得られる
⇒・シャッタースピードを早くできる
 ・絞り込んでの撮影が可能になる
 (被写界深度を深くできる)
 ・ISO感度を上げずに済む・照明の色の影響を軽減できる・逆光を軽減できる
・展示生物への影響が最小限

・フラッシュ光がガラス面に反射しない

・ありのままの色合いが撮れる

・周囲の人へ影響しない

・バッテリーの減りが遅い

デメリット ・展示生物に影響を与えるかもしれない

・ガラス面にフラッシュ光が反射する

・周囲の人の観察/撮影を妨害する

・バッテリーの減りが早い

・機材が増える

・水族館によっては使用を禁止されている

・十分な光量が得られない
⇒・シャッタースピードが遅くなる

 ・絞り開放付近での撮影となる
 (被写界深度が浅くなる)
 ・ISO感度を上げる必要がある・逆光に弱い

ざっとこんな感じかなぁ。(ほかにもあったら教えてください)
「展示生物に影響する要素:赤色」「撮影技法に影響する要素:青色」「周囲の人に影響する要素:緑色」と区分してみました。

なお、カメラオタクぶっていろいろ書いてますが、実はぼくはストロボ機器を持っていません(後述しますが、ストロボ機器を使用できるシチュエーションが非常に限られるため)。必然、水族館でフラッシュ/ストロボ撮影をしたこともなく、憶測で書いている部分も多少ありますこと申し訳ありません。
※本当は、フラッシュ撮影OKな水族館で許可をもらったうえで、外付ストロボの効果を試してみたいのですが……。いつかそういう機会を得られるといいなぁ……。

以下、「①展示生物に影響する要素」「②撮影技法に影響する要素」「③周囲の人に影響する要素」のそれぞれについて分析してみたいと思います。

① 展示生物への影響

フラッシュ撮影のデメリット(或いは禁止理由)として一番に挙げられるのが、展示生物への悪影響。

実際のところどうなのか。
「フラッシュ撮影が飼育生物に与える影響」というような論文や研究成果を調べてみたところ、主に漁業や養殖現場での人工光の活用(群れの動きを制御したりする)目的で、以下のような論文を発見。

This study describes how individual whitefish Coregonus lavaretusreact to strobe light. Field experiments were performed in a net enclosure on fish tagged with ...

(「Reactions in individual fish to strobe light. Field and aquarium experiments performed on whitefish」Sara Königsonら、Hydrobiologia 2002年)

(「ストロボ光頻度によるマアジの心拍数変化」安・有元 日水誌 1997年)

一方で、水族館での飼育生物への健康や生死について直接的に言及した論文や研究結果は見つかりませんでした。(1つ目に挙げた論文で“aquarium”とあるのは、実験室での水槽実験のことと思われます)

「魚」あるいは「水生生物」といっても淡水魚から深海魚までたくさんの種類がいますし、「もともとどれくらいの暗さだったのか」「どれくらいの明るさの光を」「どれくらいの頻度で」浴びせるのか等の条件にもよるでしょうから、生物種や展示環境によってもフラッシュ撮影の影響は千差万別だろうと思います。
ここでは、フラッシュ撮影の影響を受けにくい/受けやすいシチュエーションについて、それぞれ考えてみたいと思います。

<フラッシュ撮影の影響を受けにくい(かもしれない)シチュエーション>

例えば、太陽光がギラギラ照りつけ、晴れたり曇ったりとめまぐるしく光の加減が変わる「干潟」や「潮だまり」に住む生き物であれば、突発的に多少強い光を浴びてもそれほど驚かないかもしれません。

或いは、水族館でも外光が燦々と射す屋外/半屋外の展示であれば、フラッシュ光の影響もそれほど無いのかもしれません。(どちらも「影響ゼロ」とは断言していませんのでご注意を、、、)

他にも、環境の変化や急な刺激に比較的強い(神経質でない)魚種であれば、ちょっとくらいフラッシュの光を浴びたところで急に弱ったりショック死することはないかもしれない。とはいえそれも程度問題ですし(仮にだけど芸能記者会見ばりのフラッシュの雨を連日浴びたら、ハイギョでもストレス感じそうだ)、その個体の体調や展示環境にもよるでしょう。

このあたりのさじ加減が分かるのは担当の飼育スタッフさんくらいなはずで、我々一般客が勝手に判断できることではないだろうと思います。

<フラッシュ撮影の影響を「特に」受けやすい(だろう)シチュエーション>

水中というのは、ぼくらが想像する以上に「陸上と比べて遥かに暗い」環境です。

太陽光は海中では一気に減衰します(その中でも特に赤色の波長の光が急速に吸収されるため、海の中は青く見えるし、赤い魚は海の中では暗く地味な保護色になります)。どんなに透明度の高い海域でも水深10mで明るさは陸上の10%~20%と言われ、100mも潜ればほとんど暗黒の世界です。

そう考えると、ごくごく浅い海や河川に住む魚を除いては、そもそも陸上という環境自体が明るすぎるのかもしれません。(これを言い出すと「じゃあそもそも水族館で魚を飼うなよ」という議論に突入しそうで、それについてはまた別の観点からの説明が必要になるのですが)。
例えるならばずっと暗い部屋の中にいた人が急に強烈なフラッシュ光を浴びるようなもので、やっぱりそりゃあ魚たちだって眩しいだろう、と思います。

その中で特に、ごくごく弱い光しか存在しない深海にすむ深海生物の場合は、そのわずかな光を少しでも感知するために目が大きくなったり網膜で光を増幅させたりと進化した例が多く見られます。こういった深海生物の場合、近海魚と比べると明らかにフラッシュ撮影による影響は大きいだろうと想像されます。

他には、繁殖中の個体の場合は普段と違う光刺激を頻繁に浴びることで「ここは子育てに適した落ち着いた環境ではない」と判断して繁殖行動を中断してしまうケースというのも考えられます。(自宅でエンゼルフィッシュを飼っていた時に、朝なにげなくライトを点けたら急にそれまで守っていた卵を食べ始めた、なんて経験があります)

纏めると

・干潟や潮だまり、浅い海域や河川に住む魚であれば、フラッシュ光の影響はそれほど大きくないかもしれない(でもゼロとは断言できない)

・深海生物の場合、特に光刺激に弱いことが想定される
・繁殖中の生物も、フラッシュ光のような強い光刺激を受けることで繁殖行動に影響を及ぼすことが想像される

といったところかな、と思います。

補足1:
ちなみにダイビングで水中撮影するときには大抵ストロボなり水中ライトが使われるし、深海探査艇には強力な投光器が搭載されています。これだって生き物の暮らしや健康に多少なりとも影響する筈なんだけど、不特定多数の人間が入れかわり立ちかわり訪れる水族館と比べれば、その影響は小さいのかもしれません。
あとは、生物写真家の方がスタジオ内で昆虫や魚のマクロ撮影をするときも、被写界深度を深くして細部まではっきりと映し出すためにストロボを使用するケースが多いようです。

補足2:
今回話題となったラブカの場合、当然ながら深海に住む生き物なので原則「フラッシュ撮影はNG」のはず。但しラブカに関しては採集時点での状態が悪いことも多く水槽内での飼育が極めて難しいため、どっちにしても数日以内に死んでしまっただろうと思われます。
(なので冒頭に載せた記事のとおり「フラッシュ撮影のせいで死んだ」とは言えないかと。ただし「通常はフラッシュ撮影NGな深海生物を(仮に水族館の許可を得ていたとしても)フラッシュ撮影して取材する」ということについて、もう少し配慮や説明があれば炎上することもなかったのにな、と思います)

補足3:
一方で気になるのが、最近よく見かける水族館でのプロジェクション・マッピング。特にイワシの群れを光によってコントロールする演出(いわゆる「イワシ・イリュージョン」的なやつ)なんか、明らかに強烈な光で魚たちの行動を制御しているよなぁ、と思ったりします。
まぁ、漁船の集魚灯だって同じ理屈じゃん、とも言えるんですけどね。

(瞬間的な光量はフラッシュ光ほどではないけど、照らす時間はフラッシュ撮影よりずっと長いし……うーん。。。)

② 撮影技法としての「水族館でのフラッシュ撮影」

先ほどフラッシュ撮影のメリット/デメリットを列挙した際に、「フラッシュ撮影のメリット」として挙げたのは全て撮影技法に関わる事項。では、写真を撮るときにフラッシュを使うとどのようなメリットがあるのでしょうか??
(前述した通り、ぼく自身はストロボ機材を持っておらず使用経験もほとんどないので、教本通りの少々頭でっかちな説明で申し訳ありません。。)

<「フラッシュを焚く」とはどういうこと?>

「フラッシュ/ストロボを焚く」目的には、撮影技法的には大きく以下2つの理由があります。

1)光量を補う

2)意図した方向から光を当てる

<フラッシュを焚くことでできること>

1)光量を補う

現場のそのままの光の量では暗すぎるから、外部光源(フラッシュやストロボ)を発光させて光の量を補ってやる、ということです。
水族館は基本的には「暗すぎる」撮影環境ですので、カメラやスマートフォンの設定をオートにしているとカメラ側で「お?なんや暗すぎるやん、、フラッシュ焚かな。。」と自動的に判断して、パカッとカメラの内蔵フラッシュが開いてフラッシュ撮影してしまう、という訳です。(これをどうしたら防げるのかは、また別の機会にご紹介します)

外部光源によって十分な光量を補ってやることで、以下のようなことが可能になります。

a) シャッタースピードを確保する
b) 絞りを絞る(=被写界深度を確保する)
C) ISO感度を上げずに済む

……なんのこっちゃ、という方も多いかもしれません(逆に、このへんの話がよく分からないという方はとりあえず水族館ではフラッシュ/ストロボを使わない方がいいと思います)。

「ISO感度」と「シャッタースピード」と「絞り」はいわば三位一体の関係にあって、水族館みたいな暗い撮影環境で同じ露出を得ようと思ったらどれかを削らなきゃいけない訳です。

この辺をちょっと詳しく説明しようと思い、昨日たまたま水族館に行っていたので解説用の写真を撮って実例付きで説明したかったのですが、ちょうどいい写真が撮れなかったので断念。。。
いつも愛読している「ログカメラ」さんのHP上で分かりやすく説明されていましたので、リンクを貼っておきます。

前回、露出とはなにかについて解説しました。 露出 ざっくりおさらいすると ・露出とはカメラの撮像素子(センサーやフィルム)に光を当てること ・適正露出とはちょうどいい明るさで写るように光を当てること

水族館での実例を、手持ちの写真でちょっとだけ説明します。

【撮影条件】 ISO感度:3200、シャッタースピード:1/160秒、絞り:f/13

このときは、「水槽手前の人物」と「水槽内のスナメリ」の両方にピントを合わせたかったため、被写界深度(ピントが合ったように見える範囲のこと)をなるべく広く確保するために絞りをf/13まで絞り込んでいます。(絞り:f値が大きいほど絞り込んだ状態。逆にf値がいちばん小さい状態が「絞り開放」。)
それから、動きの激しいスナメリの被写体ブレを防ぐためにシャッタースピードも1/160秒に設定。(特に定義はないですが、だいたい1/30秒より遅いシャッタースピードをスローシャッターと呼び、ぼくの経験上だと泳いでいる魚なんかは1/15秒くらいから被写体ブレします)

絞りを絞り込み、シャッタースピードもそこそこ確保した状態ですので、簡単に言えば「薄目を開けたまま素早くまばたきする」みたいなことで、このままではカメラ内に取り込まれる光の量がごくわずかになってしまいます。
そこで、カメラ側の感度設定を少し高めのISO:3200に設定。こうすることでギリギリの露出を確保できました。但し、代償として高感度ノイズが乗ってしまっています(右上の柱のあたりを見ると、画像がザラッとしてしまっていると思います)。

あえてISO:51200という超高感度で撮影してみたサツマカサゴ。スマホの小さな画面でもなんとなくザラッとしているのが分かるのでは。

最近のカメラはどんどん高感度性能が上がり、ISO1600とか3200くらいまではあまりノイズが気にならなくなっています。また、撮った写真を比較的小さなスマホの画面で見る機会が増えました。あくまでSNSに上げる等の撮影用途であれば、フラッシュ/ストロボに頼らずともISO感度を上げることで対応できるのではないかな、と思います。

※逆に、撮った写真をポスターや写真集にしたり引き伸ばして展示するなんて場合には、スマホの画面より遥かに大きく拡大することになりますから、できるかぎりISO感度を抑えて高画質で撮影する必要があると思います。(参考までにストックフォトサイト最大手のPIXTAでは、一眼レフでの撮影画像はISO400以下を推奨、概ねISO800迄しか採用されません)

取材や商業用の撮影の場合に水族館でもストロボを使用することが多いのは、そういった理由もあるのだろうと思います。

(明るい水槽だったのでできるだけISOを下げて撮ってみた。当然フラッシュ不使用なので絞り開放に近くなって、背景のイソギンチャクが大きくボケている。※クリックすると元サイズまで拡大します)

2)意図した方向から光を当てる

例えば逆光(被写体の後ろ側からカメラに向かって光が射している)のときに被写体をしっかり写すためにストロボ光を当ててやるとか、凹凸のある被写体にサイド光を当てて陰影を際立たせるとか、そういうテクニックです。

水族館の場合には水槽の上側から照明が当たっていることが多いので、そこまで極端な逆光というのはそれほど多くありません。

(ないわけじゃなくて、例えば鳥羽水族館の川魚水槽ではたぶん意図的に逆光になるよう演出されている。魚の場合、これはこれでヒレが透過して綺麗だな、とも思う)

ただし、水族館の展示水槽の多くが「水槽の中は明るく、人間の歩く通路側は暗く」という演出になっています。そこでよくあるシチュエーションが「水槽前に並んで記念撮影をしようとしたら、人物の顔が黒く潰れてしまった」というもの。

(逆に黒ツブレしてくれるので、水族館の混雑ぶりを説明したいときなんかは重宝するんですけどね……)

こういうときについついフラッシュを焚きたくなるんじゃないかと思うのですが、水族館の場合は「ガラス面の反射」という制約もあり、実際にはカメラやスマホの内蔵フラッシュを焚いたところでなかなか綺麗には写らないのではないかと思います。

ガラス面への反射の例。
水族館で実際にフラッシュ焚いて撮ってくる訳にもいかないので、自宅の水槽で撮ってみました。(オレンジキャット君、協力ありがとう!)
真ん中で白く光っているのがフラッシュ光の反射。そして、ガラス面の汚れ(水滴の拭き残し)もフラッシュを浴びて白く目立ってしまっているかと思います。

もちろん水槽とカメラとの角度等々の条件で、たまたま反射せずに上手く撮れることもあるのかもしれませんが……。カメラやスマホに最初からついているいわゆる「内蔵フラッシュ」は基本的にカメラから真正面を照らすようになっていますので(角度を変えられない)、ガラス面に反射してしまう確率はかなり高いのではないかと思います。

(ニコンD7000の内蔵フラッシュ。シャッターボタンを押したときにコレが「ぴょこん」とポップアップしないよう、設定しておきましょう)

補足:内蔵フラッシュはたぶん、水族館では使えない。

なお、取材用や商業用にプロのカメラマンがフラッシュ/ストロボを使用するケースでは、ほとんどの場合で内蔵フラッシュではなく外付ストロボを使用します。(そのようなときは水族館側に事前に許可を取るケースが多いでしょうから、ストロボ使用の可否も事前に確認したうえで使用しているものと思います)

そして外付ストロボは大抵の機種で発光の向きを上下左右に変えることができるので、水族館内で使用する場合には、ストロボ光を水槽に真っ直ぐ向けるのではなく天井や壁に反射させたり(バウンス撮影)、デュフューザーやライトボックスを使ったりしてやわらかい間接光にする、なんてテクニックがあります(恥ずかしながらストロボ初心者なので実際に使いこなしたことはないのですが。。。)。
こうのようなテクニックを駆使することで、ガラス面への反射もある程度は防げるのではと思います。

内蔵フラッシュは真っ直ぐ被写体を照らしてしまうため、被写体が一様に明るい不自然な仕上がりになってしまいますし、先ほど書いた通りガラス面への反射を防ぐのも難しいです。
少なくとも内蔵フラッシュ(や、スマホカメラのフラッシュライト)は、水族館で使用してもほとんどいい効果は得られないのでは、と考えています。

(デジタル一眼レフ/ミラーレスカメラの上位モデルでは、内蔵フラッシュがそもそもついていない機種も多い。写真はニコンD500)

更に補足:それでも水槽前で人物撮影をしたければ……。

※すいません、さっきの写真、使い回します。

どうしても水槽前での人物撮影をしたいのであれば、なるべく明るい水槽を選んで、水槽の真正面ではなく斜め横から撮ると良いです
こうすれば水槽側からの光がサイド光~半逆光になって人物の顔をちょうどよく照らしてくれますし、水槽内の生き物と人物の両方が主役となった雰囲気のいい一枚が撮れるんじゃないかな、と思います。(と、自画自賛しておきます。ちなみにモデルは妻←顔出しNG)

それでも人物の顔が上手く写らない場合は(たとえば深海水槽の前とか)、おとなしくその水槽での撮影を諦めたほうがいいです。みんなが幸せになれます。

③ 周囲の人への影響

ここまで、

① 展示生物への影響:
一部、フラッシュの影響を受けにくいシチュエーションもあるかもしれないが、展示生物の生態や体調を十分に把握していない我々はフラッシュ撮影をしないほうが無難。
② 撮影技法としてのメリット/デメリット:
カメラの露出設定をしっかり理解し外付ストロボを使いこなせる技術でもない限り、フラッシュ撮影をするメリットに乏しい。特に内蔵フラッシュは水族館では使えない。

という2点について、ぼくの考えを書いてみました。

ここまでを読んで、「よし、だったら外付ストロボのテクニックをばっちり身につけて、フラッシュ撮影OKな水族館で使いこなしてやろう!」と思った方もいるかもしれません。(実際、自分もいつかやってみたい撮影技法ではあります)

ただ、実際にそれが許されるシチュエーションがどれくらいあるんだろう、という話です。

仮にぼくが外付ストロボを購入してそれを使いこなし、満を持して水族館に持ち込んでストロボ撮影をしたりします。
するとどうでしょう、たちまちTwitter上で「”水族館で魚を撮ろう”の中の人が**水族館でフラッシュ撮影してたぞ!!」なんて炎上……することはたぶんないと思いますが、周りの人は(えっ、ここフラッシュ使っていいんだ!じゃあ俺も私も!)なんてふうに思ってしまうかもしれません。
だって、あなたの内蔵フラッシュとわたしの外付フラッシュ、その違いが分かる人ばかりではないですからね。

その結果として内蔵フラッシュをパシパシ焚いた下手っぴ写真が量産されるのは心が痛みますし、なにより「水族館でフラッシュ撮影してもいい!」という間違った認識が広まるのは絶対に避けたいところです。

これが、「客」として訪問する限り、例え外付ストロボであっても水族館では使用しようと思わない一番の理由です。
(逆に言えば、水族館側からしっかり許可をもらい、「フラッシュ撮影中」と腕章かなんか付けたうえであれば、堂々と外付ストロボを駆使してISO100の高画質でぐぐっと絞り込んで、頭から尾びれまでピントの合った一枚を撮ってみたい、とも思いますが。)

補足:フラッシュ光の映り込みもウザい(それ以上にAF補助光)。

ついでにもうひとつ言うと、水族館で水槽を撮影しているときにすぐ隣でフラッシュが焚かれると、かなりイラッとします(それまで暗かったファインダー内が一瞬バッと明るくなるので何が起きたかと思う)。

それ以上に周囲の撮影者に迷惑をかけるのが「AF補助光」というやつです。

(ニコンD7000のAF補助光。実際に見るとかなり明るいし、フォーカス合うまではずっと点灯してる)

「AF補助光」、カメラに詳しくない方にはあまり馴染みのない言葉かもしれませんが、暗いところでオートフォーカスを補助するための補助照明です。上のニコンD7000ではオレンジっぽい光ですが、機種によってはもうちょっと赤かったり緑っぽい光だったりします。

コレ、明るさとしてはフラッシュ/ストロボの光よりずっと暗いのですが、ほんの一瞬(せいぜい数百分の1秒)しか光らないフラッシュ光と比べると、こちらは撮影者がピントを合焦するまでずっと光っています。コレは、隣に並ばれると思った以上に迷惑なんです。

そもそもこのAF補助光、カメラを購入した時点では「初期設定:ON」となっている機種も多いんですが、一体なぜ……という気がします。
最近の機種はどんどん暗所でのAF性能が上がっていますから、実際にAF補助光に頼らないと撮影できないシチュエーションというのは非常に限定的です。基本的には初期設定でOFFにしておいて、どうしても使う必要のある人だけがONにすればいい機能だと思うのですが……。(そしてAF補助光をOFFにする方法を知らない人も多い)

ともあれ水族館というのは不特定多数の方が利用する施設ですから、基本的には水族館ではフラッシュOFF、AF補助光もOFFにしておくというのが撮影者同士のマナーかな、と思います。
(撮影者による迷惑行為としては他にも「水槽前の長時間占拠」とか「ショースタジアムでの場所取り」とか……。自分も含めて、しっかり気をつけたいですね!)

■余談:サンシャイン水族館「貸し切り撮影会」での話。

去年の12月に、サンシャイン水族館で開催された「貸し切り大撮影会」に参加してきました。

師走になって今年の残りの運をぜんぶ使い切った気がします!(笑)。サンシャイン水族館にて、閉館後の貸切撮影会に参加!

この時、ぼくと同じように生き物撮影をメインにする方ばかりではなく、女性モデルを水槽前に配置してポートレイト撮影をする方が非常に多かったことに驚きました(ネガティブな驚きではなく、「なるほど!水族館ってそういう撮影ニーズもあるのか!」という純粋な驚きです)。

そして、そうやって水槽前でポートレイト撮影をしていた人の多くが、外付ストロボや大型ライトを持参して使用していたのでした。

もちろんそれ自体はイベントのルール(深海生物など一部水槽前ではフラッシュ/ストロボは使用禁止)にのっとった範囲内のことですし、皆さんの大がかりな機材を見て「なるほど、こりゃあ普段の開館時間中にはやれないことだなぁ」と、こういうイベントの必要性も実感したんです。

でもやっぱり、ぼく自身は「水族館は生き物を見る/撮る場所」って思っているから……、もしも賛同してくださる方がいて実現できるならば、生き物撮影主体の貸し切り撮影会、いつかやってみたいなぁ……。

※幸か不幸か今のところ500いいねに達していないので、実行に移さずに済んでおります。

■あとがき?まとめ?

いやはや……想像の3倍くらい長くなりました。

これでも途中ちょっと端折ったんですけどね。特に「絞りとシャッタースピードとISO」みたいな話のところは、本気で説明しようとしたらさらにこの倍くらいのボリュームになっていたかもしれません。

実際、ちょっと説明不足なところもあって、「最近流行り(?)のやたら照明が青い水槽では、ストロボ光が有効に使えるかもしれない」とか「ストロボ使って光量調節してあげれば、魚の正面顔がもっとカッコよく撮れるはず」とか、言及したい話ももう少しいろいろあったんですけどね。

今回、本当なら「水族館ではフラッシュ撮影、ダメ!絶対!!」のひとことで済む話をここまで長々と書いてしまった理由として、「雑誌や本には、ストロボ使って撮った写真がけっこう載ってるじゃん」という、前々から自分のなかで思っていたツッコミどころがあります。
(なので、「一般客が内蔵フラッシュで撮る写真」と「プロが外付ストロボ使って撮る写真」の違いに随所で言及しました。)

ぼく自身は今後も、「客」として水族館に通う限り、水族館撮影で積極的にフラッシュ/ストロボを使用しようとは思っていません
一方で単純に「水族館ではフラッシュ撮影はダメ!絶対!」としてしまうと、そのように取材や宣材用の撮影で適切にフラッシュ/ストロボを使うこともネットリンチ的に排除されてしまいそうな気がしたので、ちょっとだけ気を使って文章を綴ってみました。(じゃあ冒頭に出てきた「串本でラブカ撮った某新聞社」が果たして適切な撮影だったのかについては、よく分かりませんけど。)

最後にもういちど、まとめを書いて終わりにします。

① 展示生物への影響:
一部、フラッシュの影響を受けにくいシチュエーションもあるかもしれないが、展示生物の生態や体調を十分に把握していない我々はフラッシュ撮影をしないほうが無難。
② 撮影技法としてのメリット/デメリット:
カメラの露出設定をしっかり理解し外付ストロボを使いこなせる技術でもない限り、フラッシュ撮影をするメリットに乏しい。特に内蔵フラッシュは水族館では使えない。
③ 周囲の人への影響:
たとえ自身が適切にストロボ撮影を行っていたとしても、周囲の人の観覧/撮影に迷惑をかけることがある。余計な誤解を与えるかもしれないし、やっぱりフラッシュOFFがマナーでは?
    ⇓⇓⇓
「水族館でのフラッシュ撮影は、場合によっては有効な撮影技法にもなりうる」

「ただしその条件は非常に限定的なので、基本的には“水族館ではフラッシュNG”とするのが合理的である」
※続編書くとしたら「そもそもフラッシュ/AF補助光ってどうやってOFFにするの?」って話はそのうち書いておきたいです。
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