■借りたレンズで魚を撮ろう!
昨年12月にサンシャイン水族館で開催された「貸し切り大撮影会」。
閉館後のサンシャイン水族館を貸し切って好きなだけ写真が撮れる、本当に最高すぎるイベントでした!(水槽前でポートレート撮影する方も多くて、それはそれで普段は見ることのできない水族館撮影の一面でした)
ぼくは超幸運にも、協賛企業・タムロンさんのレンズ無料貸し出し企画に当選したため、入場前にタムロンさんの企業ブースに寄り貸出用レンズをGET!
【今回借りたレンズ:TAMRON SP 85mm F/1.8 Di VC USD】
ニコン用の貸出レンズは全部で9種類用意されていて、その中でこのレンズを選んだのは「とにかく明るい単焦点レンズで撮ってみたい」という理由。
ふだんは焦点距離が似通ったTAMRON 90mm F/2.8マクロ(いわゆるタムキュー)を愛用しているんだけれど、より開放F値の小さい(=明るい)レンズってどうなんだろう、という興味でした(注)。
メーカー自ら「人を撮るために誕生した」とアナウンスされ、「ポートレートに特化したレンズ」とも銘打たれたタムロン85㎜。果たして、そのレンズで魚を撮るとどうなるのか?!
作例も交えつつレビューさせていただきます!(カメラ用語を交えていろいろ理屈っぽいこと書いてますが、難しいことはさておき写真だけでも楽しんでもらえれば幸いです)
注:「開放F値が小さい」レンズのことをよく「明るいレンズ」って言いますけど、別にストロボ焚いたみたいに明るく撮れるって訳ではなく……。詳しい説明は省きますけど、自分自身もときどき勘違いしそうになるので要注意。
■やっぱり「明るいレンズ」は水族館撮影の必需品!
TAMRONブースでレンズを借り、いそいそとニコンD500に装着。以下、作例はすべてニコンD500で撮っています。APS-C機なので、35㎜換算で約128mm相当になりますね。
#1 暗い水槽を撮ってみる
モデルはヒメさん。
照明の暗い深海水槽なんですけど、ほぼ瞬時にフォーカスが合います。キレッキレで爽快感のある撮り心地。
腹鰭をちょこんと立てて定位する様子とピンと立てた背鰭がなんともかわいく、敢えて2段ほど絞って撮ってみました(f/1.8 ⇒ f/3.5)。2段絞ってもf/3.5ってすごいな(笑)。ふだん使ってるタムキュー(F2.8)なら、ほぼ絞り開放に近い値です。
なおこの画像、PC取り込み後にあえて露出補正を掛けないで現像しました。やや露出アンダーですけど何が写っているかはハッキリわかりますし、撮って出しでこれなら上出来かな。
#2 明るい場所でも撮ってみる
続いて、明るめの水槽でマンジュウイシモチを。
十分に光量のある水槽だったので、シャッタースピードも1/200秒を確保。さっきのヒメの写真はSSを1/40まで遅くしたのでちょっと手ブレしているのですが、ここまでSSを確保できれば手ブレ/被写体ブレの心配もあまりありません。
f/5.0まで絞ったので、後ろに並んだ個体もある程度ディテールを留めていますし、左下の個体も背景としてちょうどよくボケてくれます。
#3 正面顔を撮ってみる
サンシャイン水族館でいつも正面顔を見せてくれる南米のナマズ、スポッテド・ピニランプス(だったかな)。
魚を横から撮るのと比べて、正面顔って奥行きがある分ちょっと絞りたくなる(=被写界深度を深くする)んですよねぇ。
#4 絞り開放で撮ってみる
ここまで数段絞った作例ばかりだったので、絞り開放で撮った一枚を。
ラグーン大水槽のサラサハタ。もともと光量の多い水槽だということもあり、開放F値(f/1.8)だとSSを1/320秒まで稼ぐことができました。割とよく動き回るサラサハタでも、これくらいまでSSを速くできると被写体ブレの心配が少なくて嬉しいです。
絞り開放なので胴体部分あたりは被写界深度から外れているんですけど、それでも鱗の質感とか水玉模様のディテールは残したまま自然にボケていて綺麗。胸鰭についた砂粒の数も数えられそうで、さすがの解像力です!
■タムキューとの比較:そっか、マクロレンズじゃないんだ!
今回タムロンさんからお借りした85㎜単焦点、ふだん使っているタムキュー(タムロンの90㎜マクロレンズ)と焦点距離的には割と近いレンジなので、借りる前は(まぁ似たようなもんかなぁ)などと思っていました。
【TAMRON SP 90mm F/2.8 Di MACRO 1:1 VC USD】
ところがこれが、撮ってみると全然ちがう。「解像性能が~~」とか「ボケ描写が~~」というような話でなく、そもそもそれぞれのレンズの得意分野がちがうのですね。これは、ぼくの単純な勘違いでした。
#5 小さい魚を撮ってみる
たとえばこのシーン。
ハチェットとペンギンテトラが群泳する微笑ましいシーンで、「あぁかわいいなぁ、もう少し寄って撮りたいな」と思い水槽にぐっと近づいたところ……フォーカスが合わない。
これは単純な話で、最短撮影距離(どれだけ被写体に寄れるか)を比べると今回借りた85㎜は最短撮影距離:0.8m。一方、ふだん使っているタムキューは最短撮影距離:0.3m。
まぁ、タムキューのほうは「マクロレンズ」なんですから当然なんですけれど……。
実際に水槽の前に立ってみると、この50cmを寄れるか寄れないかというのはなかなか大きな違いです。
#6 魚に寄らず(寄れず)に撮ってみる
ふだんだったら(あと50cm寄れたら)、左手前の砂の断面は画面には入らなかったはず。
あと、水族館撮影でよく問題になるガラス面への反射も、ガラス面から離れるほど拾いやすくてしまいます。
逆にぐっと水槽に寄って撮影していると、ガラス面に写った反射や水槽面の汚れはボケて目立たなくなることが多いのです。その代わりあまり寄りすぎると魚に逃げられたり警戒されたりするんだけど。
■ならば、引きで撮ってみればいいんだな。
なるほど、タムロン85㎜はマクロレンズではないのだな。
ふだん「タムキュー」でガッツリ魚の接写をしている感覚だと、ほぼほぼピンボケしてしまうことが分かりました。
ならば、あまり1匹の魚をクローズアップせずに、ちょっと引きで撮ってみればいいんだな。(まぁ、もともと「中望遠」レンズだしな。)
#7 群れてるところを撮ってみる①
というわけで少し水槽から離れ、数匹で群れているスポッテド・メチニスを撮影。最短撮影距離が0.8mですので、水槽のガラス面から1mくらい離れてみました。
おお、いい感じ。望遠レンズの圧縮効果で、魚と魚の間隔(奥行き方向)がぎゅっと詰まって見えます。
#8 群れてるところを撮ってみる②
先ほどあまり近くに寄れなかった小型魚たちも、群れているところを狙ってやや引き目に一枚。なるほど、こういうふうに魚群を撮るのに向いているレンズなんだなぁ。
水草やカラフルなカーディナル・テトラが背景で柔らかくボケてくれるのも嬉しいです。ほんとボケの綺麗なレンズだなぁ。
#9 遠くの魚を撮ってみる
「マクロ的に近くに寄れないならば、遠いところの魚を撮ってみよう」と思い、ラグーン大水槽の奥の方で群れていたグルクマを撮影。
グルクマ特有の、大きく口を開けて採餌する様子を撮ってみました。さすがに水中の光の減退もあってちょっと薄暗く撮れてしまうけど、高倍率ズーム(いわゆる万能ズーム)よりずっと綺麗に撮れる気がします。
■謎の魔改造「クローズアップレンズ装着」。
そんな感じでちょっと引き目の構図で魚たちを撮っていたものの……、やっぱり魚たちをがっつりマクロで撮影したい!個に寄りそいたい!という気持ちがウズウズ。
うーん、なんかいい手段はないものか。。。愛用のタムキューは遠征の荷物と一緒に池袋駅のロッカーに預けてきてしまったし、手持ちのクローズアップレンズは口径77㎜で、口径67㎜のこのレンズには合わないし。。。
(※クローズアップレンズ:レンズ先端に装着してマクロ撮影を可能にするフィルターのこと。マクロレンズ買うよりずっと安上がりに接写ができる)
そう思って悩みながら館内を歩いていると、協賛企業コーナーにケンコー・トキナーさんのブースを発見。あそこに行けばなにか使えるグッズがあるかも?!
そしてありました!「67㎜ ⇒ 77㎜」のステップアップリング!
しかも貸出し用を、無料でお借りすることができました!ケンコー・トキナーさん、ありがとうございます!!
※ステップアップリング:レンズ先端に装着してフィルター径を変換するリング。フィルターって地味に意外と高いけど、コレ使えば1つのフィルターをいくつものレンズに転用できる優れもの)
コレさえあれば!手持ちの77㎜のクローズアップレンズを装着できる!!
というわけでさっそく、水族館の片隅で謎の魔改造を実施。
こんな感じになりました。(当日は実物を撮ってなかったので、帰宅後に手持ちのレンズで再現)
下側の「62⇒77」って書いてあるのがステップアップリング。
上の「77㎜ MC +4」って書いてあるのが、度数+4のクローズアップレンズ。あっしまった、MARUMI製だった。。。
注意点としては、レンズのフィルター径が変わるのでレンズフードを装着できなくなります。水槽のガラス面保護とかでフードを付ける習慣のある方は、ちょっと要注意です。
#10 クローズアップレンズで撮ってみる①
さて、この魔改造のおかげで被写体にググッと寄れるようになりました!
まずはコンゴ・テトラ。鱗のギラギラ感とヒレのビラビラ感がゴージャスで美しい魚で、こういう魚はアップで撮ると本当にカッコいいと思います。
クローズアップレンズを付けているので被写界深度がかなり浅く(狭く)なるのですが、f/6.3まで絞り込むことで被写界深度を確保して、なるべく全身にピントが合うように撮ってみました。
#11 クローズアップレンズで撮ってみる②
こちらはキッシング・グーラミィのキス顔のアップ。
顔の周りまで細かい鱗が入っていたり、唇の先はギザギザになっていたり。こういう、肉眼ではなかなか気付かない細かい造形を知ることができるので、マクロ撮影が本当に好きです!
■「人を撮るために誕生したレンズ」は、「魚ートレート撮影」でも最強か?
最後はクローズアップレンズを付けてしまったのでこのレンズそのものの評価とは別の話になってますが、2時間半たっぷりタムロン85㎜を使い倒させていただきました!
やっぱりどうしても(マクロレンズかどうかという違いはあっても)レンジの近いタムキューと比較してしまうんですけれど……。今回借りた85㎜はフォーカスの切れ味が素晴らしくて撮っていて爽快だったし、撮れた写真の自然で柔らかいボケ味にも酔いしれました。
いま使ってるタムキュー(TAMRON 90mm マクロ:モデルF017)もすごくお気に入りなんだけど、今回使った85㎜と比べるとちょっとフォーカスが眠かったりするからなー。
だけどだけど……水族館での実戦投入を考えると、やっぱり「最短撮影距離:0.8m」がネック。今回は貸し切り撮影会だったので問題なかったけれど、実際の(普段の)水族館で水槽面から1m近くも離れてると……割り込まれるんですよね、、、特にお子様に。。。
ぼくは比較的小さい魚をマクロで撮ることが多いので、今のところはこれからもマクロ撮影のできる「タムキュー:モデルF017」を愛用していこうと思います。中望遠レンズ的な撮り方ならタムキューでもできるしなー、うん。(財力があれば両方買っちゃえばいいんだけどね、でもレンズ何本も持ってたら機動性が損なわれるし、、ね…… ←自分に言い聞かせている)
※なお、今回借りたTAMRON SP 85mmと同シリーズのSP 35mmは0.2mまで被写体に寄れると聞いて、これはこれでちょっと気になっています……!
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