浅虫水族館「完全養殖クロマグロ稚魚の飼育展示挑戦 ⇒ 大量死」報道を考える。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

■【報道記事より】クロマグロ稚魚2800匹大量死 青森の浅虫水族館

青森・浅虫水族館にて8月10日より公開が予定されていた、「完全養殖クロマグロ稚魚」の展示。たいへん残念ながら、輸送及び展示準備中に稚魚のほとんどが死亡してしまった、との報道がありました。

青森市の浅虫水族館は10日、11日から公開予定となっている完全養殖のクロマグロの稚魚が、大量死したと発表した。大分県佐伯市の日本水産中央研究所大分海洋研究センタ…

浅虫水族館の公式WEBサイトにもその旨の「おしらせ」が掲載されています。

その後の報道では、8月11日の展示公開時には十数匹に減少した、とのこと。

青森市の浅虫水族館は11日、完全養殖のクロマグロの稚魚を国内の水族館として初めて展示した。同館は10日に稚魚の大量死を発表。11日にかけても減り続け、7日に約2…

この件について、報道を見て思ったことをTwitterで発言したところ少々反響をいただきましたので、補足も含めて纏めておこうと思います。

■あらかじめ、お詫びです。

このブログ記事を書くにあたり、「まだ断片的な情報しか得られていないこと」「現場に足を運ばず、机上で書いた記事であること」、あと「写真が少なくて字ばかりであること」を先にお詫びしておきます。

本当はすぐにでも浅虫水族館へ見学に行きたいのだけれどスケジュール的にそれが叶わず、だけれどいち水族館ファンとして言及しておきたい話だったのと、「自分の考える理想の水族館像」みたいなことと密接に関係した話だと感じたので、情報不足な段階だけれども自分なりの考えを書いておこうと思います。

元々、何もなくても9月か10月には浅虫水族館へ行こうと思っていたので、そのときにどんなことを感じるのか。現場でなにか新しい情報を知ることができればそれも含めて、また後日談は書きたいと思っています。

■公式WEBサイトと各社報道から、時系列を少しおさらい。

・7月21日 公式サイト「クロマグロ展示についてのお知らせ」

完全養殖クロマグロの飼育展示挑戦のお知らせ。公開日は8月10日(予定)、いるか館の円形水槽で、完全養殖されたクロマグロ稚魚3,000匹を飼育展示する予定と発表しています。
搬入後は水槽の環境に馴染んだことが確認され次第、一般公開する予定」「この展示を通して青森の大切な水産資源であるマグロの姿や、持続可能な資源の保全、利用についてご覧頂きたいと思います」とも。

このニュースは水族館好き、魚好きのなかでもけっこう話題になり、自分もこの展示を目にすることを楽しみにしていた一人でした(実は自分のところへも水族館仲間から「マグロ展示、見に行こうぜ!」と誘いがチラホラ入っていました)。

・7月25日 デーリー東北「完全養殖クロマグロ稚魚展示へ 日本初の試み」

資源量の減少で漁獲規制がかかっている太平洋クロマグロ。青森県内でも漁業者が経営の圧迫に苦しむ中、県営浅虫水族館(太田守信館長)は8月、国内の水族館として初めて完全養殖されたクロマグロの稚魚の展示と飼育に挑戦する。一般公開 続きを読む...
上記の水族館発表をを踏まえて、地元紙の報道。
輸送方法について詳しく書かれており、「6日朝に大分を出発し、活魚トラックで陸送され、約33時間かけて、7日夜に浅虫水族館に到着する予定」とのこと。
「事前準備として同水族館では7月22日ごろから、水槽にマサバやマアジを投入し、水質や溶存酸素量をチェック。万全の受け入れ態勢を整えている」とも。
「マグロは繊細で、飼育のリスクも大きいからこそ挑戦してみたい。ゼロからのスタートだが、飼育員が一丸となって軌道に乗せたい」との太田守信館長のコメントも掲載されています。

・8月8日 公式サイト「クロマグロの稚魚展示に関するお知らせ」

台風8号の影響により輸送の予定が大幅に遅れたため、公開日を8月10日 ⇒ 8月11日に延期する、という旨のおしらせ。

台風8号は8月6日早朝に九州・宮崎に上陸しその後九州を縦断し、九州エリアの高速道路は6日は軒並み通行止めになったようですので、この影響で現地出発が遅れた、或いは当初想定していた輸送路を通れなかった等の影響が想像されます。(なお、次記事のとおり浅虫水族館へは7日深夜に到着しています)

※この「台風による到着遅延」を報じた報道は少なかった(おそらく無かった)ように思います。

・8月9日 デーリー東北「マグロ稚魚“輸送作戦”成功 大分から浅虫水族館へ」

青森市の青森県営浅虫水族館(太田守信館長)に展示される完全養殖クロマグロの稚魚が7日深夜、大分県から同水族館に到着した。3千匹の稚魚の大半が生き残り、国内では前例のなかった“輸送作戦”が一定の成功を収めた。太田館長は「無 続きを読む...
大分 ⇒ 青森へクロマグロ稚魚約3,000匹が到着した、との報道。
「3千匹の稚魚の大半が生き残り、国内では前例のなかった“輸送作戦”が一定の成功を収めた」との報道内容になっています。

・8月10日 公式サイト「クロマグロの稚魚についてのお知らせ」

当初3,000匹だった稚魚が、到着時点(8月7日深夜)で約2,900匹、その後稚魚の死亡が続き、8月10日時点で100匹程度が生存している、とのおしらせ。

搬入先の水槽での水流の調整、水質悪化の改善など考えられる対策を講じてきた」「完全養殖のクロマグロの稚魚』は水族館での飼育が初めての魚のため飼育に関する知見が少なく、手探りで対応にあたっている状況」「想定よりも早期の展示終了が予想されます」とも。

当ブログ記事の冒頭に書いた通り、このことは新聞社各社やネットニュースでも相次いで報道されました。

・8月12日 Sankei Biz「水族館初、養殖マグロ稚魚を展示 大量死で十数匹に」

青森市の浅虫水族館は11日、完全養殖のクロマグロの稚魚を国内の水族館として初めて展示した。同館は10日に稚魚の大量死を発表。11日にかけても減り続け、7日に約2…

8月12日現在、水族館公式サイト上での続報は無いのですが、Sankei Bizの記事によれば8月11日の公開時点で十数匹となった、とのこと。「小まめな給餌や水流の管理が不可欠と分かり、同館は残った稚魚の飼育に万全を期す考え」とも。

この記事を書いている時点(8月12日午後)ではその後の続報は聞こえてきません。一方でニュースサイトやTwitter等のSNSではこの件についていろいろな意見が聞こえてきます。生き物と人間との関わり方に唯一つの正解はないと思っていますし、いろいろな意見があっていいと思いますが、限られた情報の中で自分なりに考えたことを、できるだけ分析してみたいと思います。
(※推測で書いている点も多く、その点はできるだけ推測であることが分かりやすいように記述していますが念のためご注意ください。事実に関することについては上記、水族館公式サイトの発表内容をご覧頂ければと思います)

■前例のないチャレンジ、大分 ⇒ 青森への長距離輸送。

今回のクロマグロ稚魚は、大分県佐伯市の「日本水産 中央研究所大分海洋研究センター」(以下、ニッスイ/研究センターとします)から提供されたもの(なお、無償での提供だそうです)。上記デーリー東北の記事(7月25日付、8月9日付)によると、大分から青森までは活魚輸送車で陸路輸送された、とのことです。

デーリー東北の記事によれば、大分県佐伯市のニッスイ/研究センターを出発したのが8月6日16時、浅虫水族館へ到着したのは8月7日23時20分ごろ。当初予定では「8月6日朝出発 ⇒ 7日夜到着(想定:33時間)」との予定だったそうですので(7月25日付デイリー東北より)、所要時間(31時間強)についてはほぼ当初予定通り、ただし時間帯が後ろにずれた、ということかと思われます。
輸送途中は4時間おきの給餌と、静岡県沼津市で海水の交換を行った、とも報道されています。

さて、ここで個人的に気になるのは水族館公式サイトでも言及された「台風8号の影響」。
輸送時間自体は当初想定から大きくズレなかったものの、出発/到着の時間がズレたことでなんらかの影響があったという「可能性」はあるかもしれません(注:以下は根拠のある話ではなく、あくまで個人的な想像です)。
たとえば、稚魚たちがまだ寝ている早朝ではなく日中の積込・出発となったこと。或いは、受入側が深夜となったことでの影響。途中の給餌や海水交換のタイミングにも影響したのかもしれません。

重ねて言いますが、これらはあくまで個人的な想像です。そして「台風8号が今回の大量死に影響している」という説を唱えたいわけではなく、こういった要因ひとつひとつを吟味していかないと、今回の件が果たして「無謀な挑戦」だったのかどうか判断はできないし、(私も含めて)断片的な情報しか手にしていない第三者が憶測で批判・批評すべきことではない、ということが言いたいのです。

■稚魚3,000匹は「多すぎる」のか?

今回、浅虫水族館での「クロマグロ稚魚、大量死」の報道を受け、ニュースサイトのコメント欄やSNS上で特によく目にしたのが「前例のない長距離輸送&飼育展示に、いきなり3,000匹もの個体を投入する必要があったのか」という点。

確かに3,000匹というのは、パッと聞くと相当に多い個体数です。これが例えば水族館の人気者のイルカであれば、「3,000頭が数日で死亡」なんて出来事が起こればまさに大事件ですし、それこそ「水族館バッシング」の理由となっても仕方のない話だと思います。
或いは同じクロマグロでも成魚であれば、3,000匹という個体数は相当な数です。葛西臨海水族園で群泳しているクロマグロもせいぜい数十匹ですから、それと比べれば3,000匹近い個体数が死んだという事実は確かに重大なようにも感じます。

けれど、それは成魚の場合。今回輸送&飼育展示に挑戦したのはあくまで5~6cmの「稚魚」であることに留意すべきだと思います。(成魚と稚魚で「生命の重さが異なる」とかそういう話ではありません)

クロマグロは、成魚であっても群れて泳ぐ魚です。まして弱く小さい稚魚のうちは、大群を作り外敵から身を守る(集団で泳ぐことで外敵の目をごまかす)習性を持っています。こういった魚種の場合、大群を作って泳いでいるのが本来の生態ですから、あえて輸送する個体数を減らすことで余計に輸送のハードルが上がるのではとも想像します(落ち着きを失う、必要以上に泳ぎ回り体力が落ちる・溶存酸素を消費する、等)。

魚種も生態も異なりますので全く同じように考えることはできませんが、参考までにクロマグロと同じように「大群を作る」魚であるマイワシの場合、水族館の大水槽へは1回に数千匹~1万匹という単位で搬入されます。また、今回と同様に種苗生産された稚魚の展示というのはサケ(シロザケ)でよく目にしますが、これまた数cmサイズの稚魚の場合は数千匹程度の群れで飼育されるのが一般的です。

そしてもう1点。これは後述しますが、今回の「クロマグロ稚魚飼育」の挑戦には水族館での飼育展示というだけでなく、種苗生産技術の研究という側面もあるはずだと推測しています。「3,000匹」という個体数は確かに水族館での展示数としては多いですが、種苗生産の現場であれば決して多すぎる数ではないはずです。逆にこれくらいのn数を設定しておかなければ、成功/失敗いずれの場合でも統計的に意味のある結果が得られない可能性があります。
今回は水族館が関わったことで注目を浴びましたが、ハマチ(ブリ)であれサケであれホタテガイであれ、種苗生産の技術開発段階では数千匹単位での試行錯誤は当然あったはずです。

ちなみにウナギの場合、人工種苗からの成魚までの生残率は今のところ5%程度ですが、それでも「完全養殖ウナギ、食卓に一歩」という前向きな論調で報道されています。この差ってなんなんでしょうね??

ウナギの完全養殖を目指す養殖技術の研究が新たな段階を迎えている。水産研究・教育機構は卵から人工ふ化し、出荷サイズまで育成する実験に成功した。育ちやすい新品種を作る試みも始まった。天然資源に頼らない完

今回、クロマグロ稚魚の長距離輸送という挑戦自体が初めての試みですから、今回の「3,000匹」という数が果たして最適解だったのかどうか、もちろんこれから議論・検証すべき点の1つでしょう。多すぎたのかもしれないし、逆に少なすぎたという可能性だってあるかもしれません。

ただ、完全養殖クロマグロのコスト面から想像すると、今回ニッスイ側が準備した「3,000匹の稚魚」というのは相応の金額の筈です。水族館側は無償提供を受けたにせよニッスイ側は高いコストをかけて育て上げた稚魚を提供するわけですから、「3,000匹」という個体数はおいそれと供出できる訳ではなく関係者が事前検討を重ねて導き出した、相応に根拠のある(初めてなりに勝算のある)数字だったはずだろうと推測しています。

■水族館でのクロマグロ(およびマグロ類)の飼育展示について

クロマグロの水族館展示といえば、東京都立・葛西臨海水族園でのドーナツ型大水槽での展示があまりにも有名です。

葛西のマグロは近海から展示用に採集したものを展示しており、「完全養殖」(親魚も人工種苗、さらにその親魚から人工孵化で得た稚魚を育てたもの)のクロマグロの飼育展示は、今回の浅虫水族館の挑戦が国内初の取り組みです(おそらく、世界初でもあるだろうと思われます)。

一方、クロマグロを展示している(或いは展示したことがある)水族館は、現時点で葛西臨海水族園をはじめ、かごしま水族館や沖縄・美ら海水族館、大阪・海遊館、アクアマリンふくしまなどごくわずか。キハダやメバチ、コシダカといった近縁のマグロ類だって、飼育展示に成功している水族館はごくごくわずかです。

(こちらはアクアマリンふくしまにて。おそらくコシダカ?)

クロマグロ(およびマグロ・カツオ類)の飼育展示に最も経験値のある葛西臨海水族園でも、過去にマグロたち(成魚)の大量死を経験しています。それだけ繊細で環境の変化に弱く、ある程度体力のついた成魚であっても高度な飼育技術が必要な魚種なのだと言えると思います。

■水族館は「クロマグロを展示すべき」か?それは「なんのため」に?

このように、今回の浅虫水族館に限らず日本の各水族館ではこれまでもクロマグロ(およびマグロ類)飼育に挑戦し続けてきました。

葛西臨海水族園でマグロたちが大量死したときにも、「そこまでして希少なマグロを飼育展示する必要があるのか」という意見をよく目にしました。これもまた人それぞれいろいろな意見があるべき話だろうと思います。そもそも「水族館」という施設の存在そのものに対して否定的・批判的な意見があることも、理解しているつもりです。

そのうえで個人的な考えを書くとすれば「水族館でのクロマグロ飼育展示には賛成」です。葛西臨海水族園でのドーナツ大水槽展示も、今回の浅虫水族館による挑戦も、これからも挑戦を継続していってほしい。ただし「なんのために?」という点を考えておくべき必要があるのだと思います。展示する側(園館サイド)も、そしてできれば観覧する側(客サイド)も。

言い換えれば、水族館の展示が単に「娯楽用」「観賞用」なのならば、敢えて希少なクロマグロを展示する必要はないだろうと、個人的には思います。

見栄えだけの問題で言えば、葛西臨海水族園のドーナツ大水槽に泳いでいる大きな魚がマグロではなくブリやカンパチやロウニンアジであっても、多少迫力が減るかもしれないけれど見た目上の問題はそれほどないかもしれない。だけれど葛西臨海水族園は「身近な食材で、希少種でもあり、飼育・養殖技術が完全には確立されていないクロマグロ」をあの場で飼育展示する意義ということを精いっぱい伝えようとしているように、ぼくには感じられます。

(去年のかさりん「ナイト・オブ・ワンダー」での1シーン。身振り手振りも交え、時には小さいお子さんにも参加してもらいながらマグロの生態を解説。たくさんのお客さんが耳を傾けていました)

ひるがえって今回の浅虫水族館の場合ですが、「クロマグロの稚魚の飼育展示」自体に果たしてどれほどの集客力があるでしょう。ぼくの周りには水族館好き・魚好きがたくさん(分母がよく分からんけど、Twitterのフォロー/フォロワー数だけで言えば数百人~?)いますが、青森まで足を運びクロマグロ稚魚を見に行ったのは今のところ数人です。

「話題性」「集客力」ということだけで言えば、もともとバンドウイルカの飼育プールだったスペースを敢えてクロマグロ稚魚の展示スペースにすることは、下手すりゃむしろマイナスなのではないかと思います(見栄え的に考えたら、明らかにイルカプールのままにしておいた方がよさそうです)。クロマグロに絡めて単に集客だけ考えるなら、「食育」という名目で大間マグロの解体ショーでも開催したほうがよっぽど効果的かもしれません。

こういったことからの推測ですが、浅虫水族館が敢えて「クロマグロを展示する」理由というのは決して話題性や集客のためということではなく、もっと別の狙いがある筈だろうと思うのです。

この飼育展示への挑戦はまだまだ始まったばかりですから、これから浅虫水族館が「完全養殖クロマグロ稚魚」の展示を通してどういったメッセージを発信していくのか、いち水族館ファン&魚好きとしてとても注目しています。そこにはきっと、単なる「見世物」以上の価値があるはずだと、展示をこの目で拝見する日を楽しみにしています。

■今回のクロマグロ稚魚は「見世物」なのか「種苗資源」なのか、はたまた「実験動物」か?

さて、それでは今回の浅虫水族館の「クロマグロ稚魚の飼育展示」という挑戦に、いったいどのような意味・狙いがあるのでしょう。

クロマグロは、人間にとって「重要な食料資源」です。その一方で、(主に人間の漁獲活動によって)個体数が減少し絶滅危惧種(IUCNレッドリスト:危急種)に指定されてもいます。そのまた一方で水族館では広大な大水槽を俊敏に泳ぐ「カッコいい魚」でもあり、はたまたその生態や養殖方法・飼育方法がまだ十分には解明されていない「研究対象」でもあります。

(葛西臨海水族園のクロマグロ。カメラ好き目線でいえば「流し撮り」で躍動感たっぷりに撮りたくなるカッコいい被写体でもあります)

この記事の冒頭の方でも書いた気がしますけど、ぼくは「生き物と人間との関わり方」にはいろいろな側面があって当然と思っています。クロマグロはある人にとっては「美味しそうな高級食材」だし、ある人にとっては「釣り竿で対峙する好敵手」なのかもしれないし、ある人にとっては「守るべき希少な魚」なのかもしれない。1人の人間の中でだってそれらは混在していて、水族館でマグロを見て「カッコいい」と思った数時間後に寿司屋で大トロに舌鼓を打っていたって、おかしなことだとは決して思わない。それがぼくの考えです。

(浅虫水族館そばの某食堂にて、名物のマグロ丼。ハンパない!!)

今回の「クロマグロ稚魚の飼育展示」という挑戦に関して言えば、一義的にはその目的は「水族館でクロマグロを見せるため」なのでしょう。けれどそれは決して「単なる見世物」ではなく、「地元のブランド魚」であり一方で「年々資源量が減っている」、そして「やっと完全養殖技術が(ほぼ)確立された」という背景を踏まえたうえでの「飼育展示」ととらえるべきです。

そしてクロマグロ漁の盛んな青森県という土地柄を考えると、「水族館での展示」という以外の側面、どちらかといえば水産研究的な側面も今回の挑戦にはあったのではないかと推測します。(以下、個人的な推測です)

近畿大学の「近大マグロ」に象徴されるクロマグロの人工養殖・種苗生産技術がこのまま進歩していけば、次のステージとして期待されるのは「種苗放流」です。

たとえば青森県の漁業者が自らクロマグロの人工種苗を放流し、将来の安定的な漁獲につなげる。そのための長距離輸送の方法や稚魚の育成といった研究も視野に入れているのではないかと思いますし、もしもそのために浅虫水族館がひと役買おうとしているのであれば、いち水族館好きとしてはとても誇らしいことだと感じます。(マグロほど大きくて遊泳力のある魚を収容・飼育できる大型水槽は水産試験場にもなかなかないでしょうから、水族館の水槽を活用するというのは合理的であるようにも感じます。余計な箱モノ建てる必要もないですし。)

今回、ニッスイ/研究センターから浅虫水族館へ輸送・展示されたクロマグロ稚魚というのは、当然「展示物」であり元々は種苗生産された「水産資源」でもあり、かつある意味では「実験材料」的な側面も持っていると言えるでしょう。
※水族館での展示であろうと水産資源であろうと実験材料であろうと、生き物を飼育する以上「動物福祉」的な配慮は求められます。ただクロマグロ稚魚の場合、そもそも「どういった飼育環境が最適か」「彼らにとって心地よい環境とはなにか」という点がまだ解明半ばの状況でしょうから、その点にも考慮する必要があると思います。

■「教育」という側面では?

水族館での生物展示の意義という点ではもうひとつ、「教育」という側面があります。ただこれは展示する側の「見せ方」に拠る部分が大きいとも思います。同じ生物種を展示していても、展示や解説のやり方ひとつで見る人への訴求力が大きく変わるというのは、あちこち水族館を廻っていてよく目にすることです。(だからこの点について、実際の展示を見ずにアレコレ言うのは控えます)

地元のブランド魚「大間マグロ」が、どこで生まれどのように育つのか。そもそも、「大間のマグロははるか南の海で生まれ育ち、津軽海峡までやってくる」ということだって、一般的には意外と知られていないのかもしれません。「この魚たち、はるばる大分で生まれてここまでやってきたんだよ」ということだけでも、青森の地で発信する意味はあるのではと思います。

或いは「クロマグロの稚魚はとても繊細で、飼育するのはとても難しい」「クロマグロを飼育展示している水族館は日本国内に数えるほどしかない」ということだって、案外知られていない事実なのではないかと思います。

この「教育」という点については本当に「伝え方」ひとつです。これから先、展示が軌道に乗ったとしてどのような情報発信がされていくか非常に楽しみです。

■「クロマグロ稚魚、飼育成功!」というニュースが聞ける日。その先にある未来予想図。

前章で既にちょっと夢みたいな話をしてしまいましたけど、浅虫水族館でのクロマグロ稚魚の飼育が成功し青森で稚魚の水槽飼育技術が確立されたら、さらにその先に見える未来にすごくワクワクします(以下も個人的な推測……というか、ぼくは栽培漁業の専門家ではないのでもはや「妄想」の域ですが 笑)。

さっきも書いた「クロマグロの種苗放流」というのも、そのひとつです。

今のところはまだまだ「貴重なマグロ稚魚」ですから、再漁獲できるか分からない海に放流するより養殖いけすで囲い込んで育ててから出荷したほうが合理的なのでしょう(コストをかけて種苗生産した当事者が必ずしも利益を得られない、というのが、種苗放流のジレンマです)。現在、クロマグロの種苗生産が盛んなのは南九州や和歌山、四国ですけれど、そこで放流したクロマグロが海流に乗って成長して漁獲されるのは青森・大間かもしれない。それじゃ不公平だから、今のところ誰も放流しないんじゃないかと想像します。

これから先、クロマグロの養殖コストが今より下がったら、そしてある程度のサイズまで簡単に育てられるということになったら……。南日本で生産された人工種苗を青森側で購入して一定サイズ(青森まで回遊してくるくらいのサイズ)まで育てて放流して、数年後に大間マグロとして漁獲する、なんてことも可能になるかもしれません。
そのときに浅虫水族館でクロマグロの稚魚が飼育展示されていたら、それこそ「こいつらが大きくなって大間のマグロになるんだぜ」って言えちゃうし、それは地元の人たちにとってもすごく誇らしいことなんじゃないかと思います。水族館好き的表現をすると、下関・海響館でトラフグ見たり、秋田・男鹿水族館GAOでハタハタ見たりしたときのワクワク感、みたいなこと。(え、ワクワクしないって??)

先にも書いた通り種苗生産にはジレンマがあって、今のところ放流してからあまり遠くまで回遊しない魚種(マダイ、ヒラメ、イセエビetc…)が多いわけです。クロマグロみたいな大規模回遊する魚種の場合は地域や国を超えて協力・連携した取り組みが必要になるはずで、それがもしも実現したらそれこそ「未来の漁業」っていう感じで、すごくワクワクしませんか?

もちろん、種苗放流には遺伝的攪乱や野生個体への影響もついてまわりますし、いけすでの養殖漁業だってその海域への影響(撒き餌による富栄養化とか)が懸念されるので、栽培漁業が完全に「夢の技術」という訳ではないのですけれど……。

※撒き餌や糞による海洋汚染を最小限に抑えるという意味で「陸上養殖」への期待があります。今回のような「水槽での飼育実験」の試みは、その実現のためにも貴重な試みになるのでは、と思っています。

■「クロマグロ大量死」のニュースを「叩く」人や報道への疑問。

別に「自分はここまで考えてるんだぜ」ってひけらかすつもりは(少ししか)ないです。ぼくだってクロマグロの生態の専門家でも、栽培漁業について特別に知見があるわけでもないですし、前章で書いたことなんかまるっきり「素人の考えた飛躍だらけのファンタジー」です。

ただ、今回のクロマグロ稚魚の飼育展示への挑戦は単に「水族館での展示」で完結せず、クロマグロの養殖・種苗生産技術の発展や天然資源の保護にも繋がる話なんだと、これは割と確信しています。

今回の「クロマグロ稚魚が2,900匹死んだ」というニュースは確かに良いニュースではないですし、死んだマグロたちが可哀想だとも思います。これを「科学技術の発展のためにはやむを得ない犠牲なのだ」と言う人がもしいたら、それは開き直りだとも思います。
けれど、ネガティブな点ばかり取り上げて短絡的に批判してしまったらそれは余計にクロマグロの人工種苗化の研究を遅らせ、それはかえって天然資源への負荷を増大させることになるのではないでしょうか。

「だったらそもそも、クロマグロ食べなけりゃいいじゃん」という指摘もありそうで、それは確かにごもっとも。ぼく個人は肉も魚も大好きですのでヴィーガニズムとは相容れないところもありますが、それでもクロマグロの希少性を考えると、回転寿司屋でひと皿100円で食べていい魚じゃないよな、とも思います。
だからといって水族館を叩くべき話でもなく、その件については他に拳の向け先がありそうですけども。

「水族館でクロマグロが大量に死んだ!けしからん!」と叩くことは簡単です。それを煽る記事を書くことも簡単です(ちなみに一方、このブログ記事は、ぼくの遅筆のせいもありますがここまで書くのに丸10時間くらいかかっています)。
だけどそういう批判的な声が大きくなれば、ニッスイや浅虫水族館(あるいはほかの水族館)が次に同様のチャレンジをするときは相当慎重にならざるを得ないし、下手したら二度とこのチャレンジに手を出さないかもしれない。(この場合の慎重さというのは実験計画を慎重に進めるというより、マスコミや世間を刺激しないように、という意味の慎重さという意味です)

それによってクロマグロ種苗生産の研究が停滞する、ひいてはクロマグロ天然資源に負荷をかけ続ける、そういう可能性を考えないのかな?という点が、ぼくには疑問です。

■ここで追加情報!

幸いにして、8月12日時点で十数匹のクロマグロ稚魚が生残しているそうです。浅虫水族館公式サイト上で、遊泳している様子の動画も公開されました。

今回多くの稚魚が死亡してしまった原因究明とともに、生残したこれら十数匹(現地に足を運んだ方の話では13匹。8月12日は1匹も死んでいないそうです)のクロマグロたちにはぜひ少しでも長く生きてもらって、そこから今後につながる貴重なデータが得られることを願っています。(新聞記事を読む限り、既に「小まめな給餌や水流の管理が不可欠と分かった」等、水槽飼育を通して得られた知見もあるようです。水族館での飼育だけでなく、種苗生産の現場にも還元できるデータと思います)

そして、今回の経験やデータを糧にまた次の挑戦に繋がり、浅虫水族館で完全養殖のクロマグロたちが群泳する姿を早くこの目で見てみたいと、心から楽しみにしています。

スポンサーリンク
写真素材のピクスタ

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

Copyrighted Image