コラム『混んでいる水族館は好きですか?』

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■Twitterの「アンケート機能」にて。

ふと思いたって、Twitterで簡単なアンケートを2つ取ってみました。

1つ目はこちら。

【どちらの水族館が好きですか?】
・満員でにぎやかな水族館
・空いててガラガラの水族館

「観る側なら空いてるほうがいいけど経営的には混んでるほうがいい」「だからどっちがいいとは言えない」というような指摘もあるとは思うのですが、敢えて極力シンプルな二択にしてみました。(下手に言葉を足すと、どちらかに誘導してしまいそうなので)

※厳密には「にぎやかな」の対義語は「しずかな」、「ガラガラの」の対義語は「混んでる」あたりだと思うので、言葉選びに多少の作為は隠れているのですが。

結果はこちら。

圧倒的に後者!

ちょっとした言葉選びのトリック(「混んでる」よりポジティブな「にぎやかな」、「静かな」よりネガティブな「ガラガラの」という単語をそれぞれ選んでいます)にも関わらず、圧倒的に後者!

たぶんそうだろうな、と思いつつ、ここまで圧倒的な差がつくとは思いませんでした。

その数日後。
2つ目のアンケートはこちら。

【どちらの水族館が好きですか?】
・満員でにぎやかなイルカショー
・空いててガラガラのイルカショー

選択肢の「水族館」を「イルカショー」に変えただけ。引き続きシンプル構成。

果たして、結果はこちら。

【アンケート】どちらの水族館が好きですか?

ほほう、意外と拮抗。

1つ目のアンケートの結果があまりにも極端だったので、「水族館」を「イルカショー」に変えただけでここまで違う結果になるとは思っていませんでした。

やはり「水族館 = イルカショー」ではないんだよなぁ、みたいなことを実感。

■少しだけ考察。

めっちゃ単純化した2つだけの設問ですので、統計もへったくれもないのですが……。
Twitterアンケートなので、回答してくださった方の一定数はぼくのフォロワーさん、いわゆる「水族館ガチ勢」でしょうし、多少なりバイアスもかかってると思います。
(でもこういうマーケティング的なことってとても興味ある。こういうテーマで水族館について分析された社会学とか経営学の論文とか読みたいです)

この2つのアンケート結果からざっくり言えるのは

「大多数の人が ”空いている水族館” を望んでいる」
「にもかかわらず ”イルカショーは満員でもいい” という人が4割以上いる」

ということでしょうか。

民営(私立)の水族館は基本的に営利事業ですから収益性を求められますし、多くの公営水族館でも多かれ少なかれ「収益性」「集客性」が評価指標のひとつになっているのでは、と思われます。
そういった園館側の経営的な思惑と「空いている水族館がいい」という観客側のニーズは相反するわけですよね。

そんな中にあって例外的に、「イルカショー」(或いは鯨類以外の海獣ショーも、かもしれない)は「満員でもいいよ」という支持がある程度得られるプログラムだ、と言えるのかもしれません。

ぼくがここで言うまでもなく、イルカショーに代表される鯨類/海獣ショーに対しては昨今、動物愛護や動物福祉といった面で厳しい意見も多く聞かれます。ぼく自身は個人的には「イルカショーは別にあってもなくてもどっちでもいいや」という微妙なスタンスなので、この問題についてはあまり多くを語りづらいのですが……。

※補足:
少しだけ深掘りすると、自分自身はイルカショーはあまり見ないです(まったく見ない訳ではないです)。「動物福祉的に問題がある」という指摘にも「なるほどなぁ」と思う点も多々あります。一方で水族館は間違いなく社会に必要な生涯学習施設だと確信していますし、海洋生物の一員として鯨類に関する展示があることにも違和感はあまり覚えません。
(あと「イルカショーの時間帯は館内の魚類展示が空いている」という恩恵を副産物的に受けていたりします 笑)
そして「ショー」というのは水族館の構成要素の1つに過ぎないので、ほぼそこだけをつかまえて「水族館なんて害悪!」という主張には激しく違和感を覚えたりもします。

(わりと最近だと、2020年3月に閉園した「みさき公園」のイルカショーはガッツリ見てしまった。閉館前、最初で最後の訪問でした)

(浅虫水族館の「いるか館」。「地元の海のイルカ」を紹介してくれてとても好き)

■水族館では稀有かもしれない「大人数で楽しめるプログラム」。

先ほどの2つのTwitterアンケートの結果を見て感じたこと、もう少し。

イルカショーや海獣ショーってよく「集客力のある展示プログラム」というとらえ方をされることがあります。

これはもちろん間違いではなくて、その顕著な例が神戸市の水族館リニューアル計画(=新スマスイ)あたりなんじゃないかと思います。一方で、この「集客力がある」という評価の本質は単に「多くの人に人気がある」ということだけではなく、「大人数で楽しめる」ということなのかもしれないな、と思った次第です。

日本の主要な水族館いくつかについて、ショースタジアムの収容人数を調べてみました。

園館名 メインスタジアムの収容人数 主な展示生物
名古屋港水族館 約3,000人 シャチ、ハンドウイルカ、カマイルカ
鴨川シーワールド 約2,000人 シャチ
アドベンチャーワールド 約4,000人
(立見含む)
ハンドウイルカ、カマイルカ、オキゴンドウ
八景島シーパラダイス 約2,000人 ハンドウイルカ、カマイルカ、
オキゴンドウ、ベルーガ ほか
須磨海浜水族園 1,200人 ハンドウイルカ
美ら海水族館 980席 ミナミハンドウイルカ、オキゴンドウ
ユメゴンドウ、マダライルカ ほか
新江ノ島水族館 約1,000人 ハンドウイルカ、カマイルカ、ハナゴンドウ
京都水族館 約1,000人 ハンドウイルカ
仙台うみの杜水族館 約1,000人 ハンドウイルカ、カリフォルニアアシカ
なぎさ公園(閉園) 939人 ハンドウイルカ、カマイルカ
アクアパーク品川 約1,200席+立見 ハンドウイルカ、カマイルカ、オキゴンドウ
浅虫水族館 約400人 ハンドウイルカ、カマイルカ

※公式HPに記載のなかった園館もあり、情報は最新ではない可能性があります
※COVID-19対策による入場制限等は反映していません

あまりイルカショーを見る人間ではないので見落としもあるかもしれませんが、パッと思いついた水族館についていくつか調べてみました。

収容人数が2,000人を超えると「巨大スタジアム」という感じですね。そしてやはり、名古屋港水族館のスタジアムは大きかった……!

あと、特筆すべきは鴨川シーワールド。最も大きい「オーシャンスタジアム」(シャチプール)が収容人数2,000人ですが、これ以外にもイルカ用の「サーフスタジアム」が1,000人、アシカ用の「ロッキースタジアム」が1,000人、屋内のベルーガ展示施設「マリンシアター」が700人。

これ以外の水族館では、おおむね数百人~1,000人前後というところが多い印象。(屋内スタジアムということで、アクアパーク品川と浅虫水族館を入れてみました)

水族館の水槽展示をアレコレ思い浮かべてみたときに、こんな風に数百人~1,000人以上の人々が同時に同じ生き物を見ている、という光景は、他にはなかなか思いつきません。

異論反論もありそうですが、ぼくは水族館は「生き物の姿を見て学んでナンボ」の施設だと思っています。
なので、1つ1つの水槽やその中の生き物をできるだけじっくり見るべきだと思う。けれど皆がそうすると、繁忙期には館内が渋滞しゆっくり水槽を眺められない……というジレンマを抱えているわけですよね。

(葛西臨海水族園の「世界の海」エリア。空いてるときと混んでるときで快適度がとんでもなく違う。水槽1つ1つが小さめで、順路が入り組んでいて、展示物の濃度が濃ゆいので……。)

あとは繁忙期でなくても、水族館好きのあるあるとして「遠足/修学旅行の団体客に圧倒される」ってのが多分あって、ひとりでゆっくり館内見学しているときに団体客がワイワイガヤガヤやってくると内心(うへーーー)ってなる。かといって、子どもたちの学習の場として水族館が活用されること自体は素晴らしいなぁと思う。みたいな矛盾。

(平日のアクアマリンふくしまにて。大水槽前がほぼ遠足の団体客で埋め尽くされ、トンネル通路は閉塞。こういうときは静かにほかの展示エリアに移動するのが得策ですね)
(※プライバシーに配慮し、画像の一部を加工しています)

こういう混雑時に自分がしばしば使う手段が、「イルカショーの時間帯は館内が多少空くので、そのタイミングを狙って魚類展示をじっくり観察する/撮影する」というやつです。

数百~数千人規模の収容力を備えたショースタジアムは、このように集客/動線的な面での一種のバッファ(緩衝帯)みたいな役割も兼ねているのではないだろうか、と思うのです。

■「イルカショーに代わるもの」はあるのか?

イルカショー/海獣ショー以外で、こういった「観客収容力のある」水族館展示ってあるのかな、ということを少し考えてみました。

最初に思いついたのは、アクアマリンふくしまの「蛇の目ビーチ」。広さ4,500㎡という、世界最大級のタッチプールです。タッチプールというか、もはや海です(笑)

先ほど写真を上げましたが、地元の小中学校の遠足コースになっていて平日に突然激混みすることがあります(遠足シーズンには公式HPに団体客の混雑予測が発表される親切設計です)。
内心(こんなに団体客が来ちゃってどうなるんだろう)と思いながら眺めていたら、最終的には超大型タッチプール「蛇の目ビーチ」とその傍らの体験型施設「アクアマリンえっぐ」に落ち着いたようでした。

ショー展示を一切やらないアクアマリンふくしま、収容力という意味でその代替として機能しているのがこの体験型エリアなのかもしれません。

こちらは須磨海浜水族園(スマスイ)の「さかなライブ劇場」。
数百人規模とまではいきませんが、「大人数で楽しめる魚類展示」というのは貴重だなぁと思います。このときのテーマは「めっちゃかしこいマダコの能力大解剖!」。これだけの人数(たぶん100人程度はいたと思う)が1匹のマダコを同時に観察してるって、よくよく考えるとすごくないですか?!

リニューアル工事のため残念ながら現在は閉鎖されていますが、「新スマスイ」にもこういう展示エリアができるといいなぁ。

「大人数で楽しめる魚類展示」というと、あとは大水槽でしょうか。
葛西臨海水族園のマグロ大水槽「アクアシアター」。ベンチ型の座席があって、給餌解説イベントのときにはかなりな人数を収容できます。
(※プライバシーに配慮し、画像の一部を加工しています)

こちらはUSA/ボストンの「ニューイングランド水族館」。
建屋の4階まである円柱型の大水槽。そのいちばん上はこのように吹き抜けになっていて、テラス部分をたくさんの人がぐるりと取り囲んで展示解説イベントに耳を傾けていました。ここでまず展示解説を聞いてから、らせん状の通路をぐるぐる廻り、大水槽の水景を楽しむ、という館内動線になっています。
この大水槽の構造からして、ここでこういう展示解説イベントをすることを最初から見越して設計されているのでは、と思われます。

今後、日本の水族館が少しずつ「ショー頼み」から脱却していくと仮定して、それでも一定の集客力/観客収容力は維持しなければならないわけで、そのときにこのような「大人数で楽しめる展示解説イベント」というのはきっと増えていくのではないかな、と内心期待しています。
(とはいえ前述したような、数百人~1,000人超というショースタジアムの収容力には現状なかなか匹敵できなそうですが……)

ほかには映像や音によるバーチャルなコンテンツというのも、その1つになり得ると思います。

ただ、時には人間が予測し得ない行動をする生き物たちの姿を、こういったいわゆるバーチャル展示がどう再現できるのか?(特に「死」をどうありのままに表現するのか)、それから、映画館や自宅のシアタールームで野生動物のドキュメンタリー映像を視聴するのとなにが違うのか?という疑問も、個人的にはあるのですが。
(水族館という、「本物」がいる場所ならではのバーチャル展示の存在意義も、きっとあるはずだと思っています)

生き物を展示する以上、動物福祉的な面での議論は不可欠だと思います。
個人的には、イルカショーからは野生の海を泳ぐ彼らの姿をイマイチ想起できなくて、もう少しイルカ(鯨類)という生き物自体を見せてくれる・学ばせてくれる水族館展示が増えたらいいのにな、なんて思ったりもします。
(いや、そもそもイルカショーを普段あんまり見てないので偉そうなことは言えないのですが、、、)

一方で、水族館の経営面・運営面を考えたときに「大人数で同時に楽しめるプログラム」というのはおそらく何かしら必要なはずで、仮にショープログラムを廃止した場合にそのあたりをどう代替していくのだろうか……なんてことを、素人目線ながら考えてみたのでした。

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