「撒き餌レンズ」という言葉が、カメラ界隈にはある。
撒き餌、という言葉がちょっと品のないイメージですが、これは要するに「値段は安いんだけど写りがよくて、手を出すとカメラの楽しさに魅せられてレンズ沼に堕ちてしまう」というようなニュアンス。
つまりカメラ初心者がキットレンズの次に手に入れることが多いレンズでもあるんだけど、実はこの「撒き餌レンズ」、水族館撮影にもなかなかピッタリだぞ、という話です。
■「撒き餌レンズ」≒「標準単焦点レンズ」
ここで少しだけ、「撒き餌レンズ」とはなにか?ということを整理しておきましょう。
(Wikipediaにも記事があります)
だいたいこのWikipediaに書かれている通りで、撒き餌レンズとはざっくり言うと
▼ 価格が比較的に安価(だいたい実売価格で3万円台以内)
▼ F値がそこそこ小さい(暗所に強くてよくボケる)
▼ サイズ感がコンパクト
▼ 標準レンズの画角域(※)を持つ
という特徴を持っています。
※「標準レンズの画角域」:
レンズの画角は「焦点距離」で表現し、一般的に35mmフルサイズ換算での焦点距離:50mm前後が「標準レンズ」とされています。「焦点距離50mmの画角が、肉眼での視野範囲にいちばん近い」などなど、その理由は諸説あるようです。
上に並べた条件「安価だけれどF値は小さく、ボディはコンパクト」というレンズを作ろうとするとどうしてもズーム機構までは望めずに単焦点レンズとなり、それゆえに「撒き餌レンズ=標準単焦点レンズである」ということになっております。
(自分が使っている「撒き餌レンズ」。35mm換算で約53mmの焦点距離の標準レンズ。実売価格でだいたい2万円くらい。2012年1月に購入して、今でも現役で愛用中)
※ちなみに、NIKONからはこの「焦点距離35mmの単焦点レンズ」が合計4機種も現行機として販売されています。いちばん高い「AF-S NIKKOR 35mm f/1.4G」はなんと、実売価格で20万円超。当然これは「撒き餌レンズ」とは呼びません。
<補足:「キットレンズ」とは>
エントリークラス~ミドルクラスくらいの一眼レフ/ミラーレスカメラには「レンズキット」という販売形態があり、廉価版の標準ズームレンズとセット売りされています。
このレンズがいわゆる「キットレンズ」。
このレンズでももちろんひと通りの撮影はできるけれど、どうしても廉価版なりの性能(「f/3.5-5.6」等やや大きめのF値、ゆえに暗所に弱い&背景があまりボケない など)。
最近ではスマホのカメラ性能が劇的に向上したこともあって、買ったばかりのキットレンズでは「あれ?せっかく高いカメラを買ったのにスマホと大して変わらないじゃん」なんて不幸な出会いもありそうです。
そこで「いやいや!カメラって面白いから!レンズ替えれば楽しさ無限大だから!!」とカメラメーカー各社が用意しているのが、この「撒き餌レンズ」というわけです。
(だったら最初から「撒き餌レンズ」とセット販売すればいいのになー、とも思うけど。)
【こんなチャレンジもやってみました】
■「撒き餌レンズ」で、水族館を撮ってみよう
僭越ながら、実際にこの「撒き餌レンズ」で水族館を撮った作例をいくつか。
今回はあえて、ぼくがカメラを持ち始めた比較的初期(2012年~2014年)に撮った写真を中心にセレクトしてみました。
粗削りな写真ばかりですが、カメラ持ち始めたばかりだった当時のぼくの「なにこれ!こんな写真撮れるの?!めっちゃ楽しい!」という新鮮な感動と驚きが少しでも伝われば……と思います。
3cmくらいの小さなカーディナルテトラが、肉眼で見るよりも遥かに鮮明に写る。
小学生のころ、熱帯魚を飼い始めたときの感動が蘇ったような気持ちになりました。
「目にピントを合わせると綺麗に撮れる」ってことを知ったころ。
ヒレの透け感とかも、写真に撮ると綺麗だな、って知ったころ。
「正面顔」なんてことばもしらなかったし、
「#魚の正面顔愛好会」なんてハッシュタグもまだなかったあのころ。
標準レンズの画角ではあるものの、ガラス面にぐっと近づけばそれなりに魚たちに寄ることができる。水草の茂みや流木もちょうどよく写って、小さな魚たちの暮らしぶりが垣間見える感じが好き。
「肉眼でぼんやり目の前を眺めている視野」に近いといわれる標準レンズの画角。
大水槽を泳ぐシロワニ(サメ)の全身が、自然な感じでおさまっています。
水草水槽を泳ぐラミレジィ。
絞り開放のせいもあるけど、背景がめっちゃボケます!
ちなみに当時はこの写真でも感動できてたんだけど、もっとググッと小さい魚の細部に寄りたくなって、このあと中望遠マクロレンズの購入に至る。(これがいわゆるレンズ沼)
■「撒き餌レンズ」のイイところ@水族館
たびたび言ってますが、水族館って写真撮影の現場としてはなかなかの悪条件です。
▼ 水槽内が暗い
▼ 被写体(魚)が動き回る
▼ 水槽ガラスによる映り込み・屈折がある
▼ 館内を歩き回る(基本的に手持ち撮影)
などなど……。
「撒き餌レンズ」って、これらの悪条件を解決してくれるレンズだなぁ、とも思います。
▼ F値が小さい(明るい)
カメラ好きがよく言う「明るいレンズ」。F値が小さいレンズのことをこう呼ぶのですが、これって別に「フラッシュ焚いたみたいに明るい写真が撮れる」って訳じゃないです。(明るく写るかどうかはカメラの露出設定しだい)
ともあれ、F値が小さいレンズほど暗所に強いことは事実。
各メーカーの「撒き餌レンズ」とも、おおむねf/1.8以下のF値であることが多いので、キットレンズと比べると格段に暗所に強いです。
そして大きなボケも得られるので、ガラス面の映り込みを前ボケである程度ごまかすことができます。(被写体との距離関係にもよりますが)
▼ サイズ感がコンパクト
コストを抑えるためでもありますが、シンプルなレンズ構成でコンパクトに設計されていることが多い「撒き餌レンズ」。
ぼくが使っている「AF-S DX NIKKOR 35mm f/1.8G」はなんと、重量およそ200g。
フットワーク軽く持ち歩けて、水族館内で長時間手持ち撮影していても苦になりませんし、遠征に持っていくにも便利です。よく動く魚を追う時にも負担になりません。
コンパクトなボディのエントリー機のカメラと組み合わせるにもピッタリです。(D3000シリーズあたりにつけると、下手なミラーレスカメラよりコンパクトに収まったりします)
■「撒き餌レンズ」選びの、ちょっとした注意点
このようにいいことづくめの「撒き餌レンズ」。
その楽しさを実感するために、ちょっとした注意点を1つだけ。
▼ APS-C機ならば、35mmのレンズを選ぼう(Not 50mm)
カメラの入門書なんかを買うと、よく「標準レンズとは50mmのレンズである」的なことが書いてあります。
これを鵜呑みにして、「50mm f/1.8G」あたりを最初に買ってしまった、という話をときどき聞きます(というか、自分自身がそうでした……)。
もちろんこのレンズも安価でよく写るいいレンズなのですが、いざ自分のカメラにつけてみると……ん??なんかちょっと違う。。
「肉眼の視野に近い」とよく言われる「標準レンズ=50mm」の画角だけど、いざ撮ってみるとなんだかずいぶん狭く撮れるぞ……?(上の写真でいえば、ぼくが撮りたかったのはもう少しステージ全体がワイドに写った構図です)
これは、当時の自分が「センサーサイズとレンズの画角」ということをきちんと理解していなかったのが原因。
詳しい話はここでは省略しますが、レンズの型式に書いてある「焦点距離**mm」はすべて「35mmフルサイズ機」に取り付けたときの数値。
フルサイズ機と比べてセンサーサイズの小さなAPS-C機やマイクロフォーサーズ機では、それぞれのセンサーサイズに合わせてこの「焦点距離**mm」を換算してやる必要があるのです。(「35mm換算」と呼びます)
ということで、
・APS-C機なら、書いてある数値の1.5倍(メーカーによっては1.6倍)
・マイクロフォーサーズ機なら、書いてある数値の2倍
が実際の画角(35mm換算の焦点距離)となります。
なので、ニコンのAPS-C機を使用しているぼくの場合は、最初から35mm単焦点レンズを標準レンズとして使うのが正解だった、ってわけ。(35mm × 1.5 ≒ 53mm)
■さぁ!「撒き餌レンズ」で水族館を撮ろう!(そしてレンズ沼へ……)
ぼくはいまでもこの「撒き餌レンズ」を現役で使っておりまして、最後に最近撮った作例をいくつか。
中望遠のマクロレンズで撮ったのかなと思いきや、35mmで撮ってた。
これくらいのサイズの魚だと、魚体全身が無理なく収まる距離感がいいです。
少し引きで、館内の様子を写すのにもちょうどいいです。
一方、この「撒き餌レンズ」をしばらく使ってみると、自分の撮りたい画やほしい画角がなんとなく見えてくるのです。
・もう少し魚にググっと寄った写真が撮りたいから中望遠マクロレンズを!
とか
・やっぱりズーム機能が欲しいからf/2.8通しの標準ズーム買おう
とか
・海獣たちをがっつりズームで撮りたいから、望遠レンズが欲しい!
とか、自分に合ったレンズを少しずつ揃えていけばいいのでは、と思います。
そして、人はそれを「レンズ沼」と呼ぶのです……。
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