■「水族館で魚を撮りたい」あなたに捧ぐ!
「水族館で、魚を撮ろう。」なんていう名前のブログをやっていると、「どうやったら魚を上手く撮れるだろうか」というような質問をいただくことがままあります。(実際のところ、ぼく自身も撮影技術についてはまだまだ修行中の身で、誰かに何かを教えるなんておこがましいことヤマノカミの如し、なのですが……)
とはいえ、「水族館でのお魚撮影」というマイナーなジャンルの魅力を伝えたい!という気持ちに偽りはないわけでして、てっとり早くその楽しさを体感していただける方法の1つが今回紹介する「マクロ撮影」なのかなー、と思います。
ごくごく一例ですけど、たとえばこんな作例です。
こんな風に、小さな魚たちにグググッと近づいて鱗の1枚1枚や鰭の条の1本1本をしっかり写し撮ることができると、なんだかもうとんでもない発見をしてしまったような気がしてたまらなく幸せな気持ちになれます。
実際のところ、上にあげた3例の魚たちはどれも数cm~せいぜい10cm程度の小さな魚たちで、肉眼ではその造形美をつぶさに観察することができません。
「今まで気付かなかった生き物たちの美しさを知ることができる」というのが、今回紹介するマクロ撮影(接写撮影)のすばらしさなのです。
実は必要最低限の機材さえ揃えてしまえば誰でも楽しめるマクロ撮影。今回は、そのやり方として3つの方法を紹介したいと思います。
※これまでにマクロ撮影で撮った作例については、またどこかの機会で紹介できればと思います。
■その① マクロレンズで撮る
まずは王道から。
レンズを交換することで、その楽しさを無限大に広げることができるレンズ交換式カメラ(一眼レフカメラ、ミラーレスカメラ)。
「マクロレンズ」という、マクロ(接写)撮影用に設計されたレンズが各メーカーから多数発売されています。
現在、ぼくがメインで使用しているのが日本のレンズ専用メーカー・TAMRON(タムロン)から発売されている90㎜マクロレンズ。通称「タムキュー」。
初代「タムキュー」の発売は1979年。それから40年以上にわたりモデルチェンジを繰り返しながら進化し続けてきた、歴史と伝統のあるシリーズです。
現在の最新モデルは「F017」。
このレンズがどこまで「寄れる」かというと……カタログ的なことを言うと、最短撮影距離:0.3m。
レンズの最短撮影距離はレンズ先端からではなくカメラ内部の撮像面(センサー面)からの距離になりますので、実際の被写体との距離感はこんな感じ。
ギリギリ限界まで寄った場合、レンズの先端からだいたい10cmくらいのところに被写体があるイメージです。水族館の水槽をイメージしてもらえれば、この「レンズから10cm」というのはなかなかの接写具合だと感じられるだろうと思います。
※以下、ウチにあった食玩フィギュアのトラウツボ君に撮影協力してもらいます(笑)。
マクロ撮影の魅力といえば、背景のボケ感。
トラウツボくんにはしっかりピントが合いつつ、背景はとろけるように大きくボケています。
実は背景になっていたのはこのレッドテールキャットの写真。
まったく原型をとどめず大きくボケていたのが分かるかと思います。
それと、勘違いされやすいのですが「マクロレンズ」は「マクロ撮影」以外にも使用できます。(近距離を接写するためだけのレンズではありません)
描写力の高い中望遠レンズとして、風景写真を撮ることも可能。強すぎず適度な圧縮効果が楽しめて、中望遠レンズって好きなんですよねぇ。幅広い使い方のできるレンズだと思います。
今回紹介した「タムキュー」に限らず、マクロレンズは様々な焦点距離(画角)・スペック・価格帯のものが発売されています。機材投資に少々お金がかかるのが難点ですが、1世代前の「タムキュー」(モデル272E)あたりは比較的お手ごろ価格かと思います。(前玉が伸び縮みするタイプのレンズなので、水族館撮影の場合はガラス面にぶつけないよう要注意)
※ちなみになぜかニコンだけは「マクロ(Macro)」ではなく「マイクロ(Micro)」レンズと呼ぶ。いちおう理由もあるのですが、ここでは割愛します。
■その② クローズアップ・レンズを使う
マクロレンズが楽しいのは分かったけど、とりあえずレンズ1本数万円の機材投資はしたくない……という方にオススメなのがこちらの方法。現在お手持ちのレンズをまずは最大限活用したい!という方法です。
それが、コレ。「クローズアップ・レンズ」。
コレがナニかというと、レンズの先端につけるフィルターの一種です。写真「77㎜」がレンズのフィルター口径、「MC +4」が接写レベルの度数。
ちなみに光学機器メーカーのケンコー・トキナーからは「クローズアップ・レンズ」という名前で発売されています。
一方、同じく光学機器メーカーのマルミからは「マクロフィルター」という名前で発売。少しだけややこしいですが基本的に同じタイプの製品です。(個人的には「マクロフィルター」のほうが分かりやすいなー、と思う)
横から見ると、虫メガネのように(凸レンズ)盛り上がっています。
フィルターをかざしてみたところ。
やはり虫メガネのように拡大されているのが分かると思います。使い方は簡単で、レンズ先端のフィルター枠(ネジが切ってあります)に装着するだけ。
さて、その効果のほどは??
先ほどのタムキュー(TAMRON 90mmマクロ)に装着してみましょう。
装着前がこちら。
ピントの合うギリギリまで寄っています。
装着後がこちら。
同じくギリギリまで寄ったところ。未装着の状態より、一段と接写できているのが分かると思います。(2枚ともトリミング無しです)
次に、マクロレンズではなく標準レンズに装着してみたところ。
今回のレンズは、ニコン(Nikkor)製35㎜単焦点レンズ。
安価にレンズ沼の深淵を体感することのできる標準単焦点レンズ。いわゆる「撒き餌レンズ」というやつです(笑)。2009年のリリース後、今でも現役で発売されているロングセラーな一本。(ぼくも今でも愛用してます)
クローズアップレンズの装着前がこちら。
装着後がこちら。
ややピンボケしてしまっているのが残念ですが、フィギュアの大きさ(3cm)程度)を考えるとこの寄れ具合の差は大きい(と思いませんか??)
クローズアップ・レンズの選び方や使い方については、ケンコー・トキナーのHPにも詳しく書いてあります。度数がいろいろありますので、適切なものを選べばいいと思います。
最初に紹介したマクロレンズの欠点として、レンズの値段が高いこと以外に「荷物がかさばる」「レンズ交換に時間がかかる」という点があります。
一方このクローズアップ・レンズであれば(レンズ径にもよりますが)1枚数千円で購入できますし、カメラバッグに1枚しのばせておくことで手持ちのレンズが接写仕様に早変わりしてくれますので、大変便利です。
逆に欠点としては、どうしてもマクロレンズと比べると光学的な精密さはやや劣るため収差(歪み)が気になるかもしれません。また、マクロレンズと違いこれをつけた状態では「遠くはピンボケする」(いわば「ド近眼」状態になる)こと。
まぁ、外せばいいだけなんですけどね。
■その③ コンデジ・スマホの「マクロ撮影」機能を使う
最後に、「そもそも一眼レフ・ミラーレスカメラを持ってないよ!」という方向けに。
コンパクト・デジタルカメラ(コンデジ)やスマホの一部の機種には、接写モードを搭載しているものがあります。(たいてい花のマークだったりします)
ぼくは水族館ではほとんどスマホでの撮影をしませんので、スマホでの撮影術については割愛します。(ただ、いちばんニーズがあるのもここなんだろうなぁ……)
コンデジに関して言えば、オリンパスから発売されている「TG」シリーズが、このマクロ撮影については最強ではないかと思います。
こちらは僕の使っている「TG-5」。現在は後継機種の「TG-6」が発売されています(みためほぼ一緒)。
とにかくこのTGシリーズの「顕微鏡モード」が、半端なく楽しい!
水族館で撮ったソフトコーラルのポリプ。
こういう撮影に関しては、正直下手に一眼レフを使うより簡単で綺麗に撮れたりします。
このTG-5/6の顕微鏡モードについては、各レビューサイトでも紹介されていますので調べてみてはと思います。昆虫写真家の海野和男さんも絶賛していたりします。
TGシリーズの顕微鏡モードで特に面白いのが、深度合成機能。
下の2枚のトラウツボくんを見比べてみてください。
深度合成なしで撮影。
目にはピントが合っていますが、胴体部分はボケています。
深度合成ありで撮影。
目から胴体まで、ほぼピントが合っているのが分かるかと思います。
ピントを少しずつずらした複数枚の写真をカメラ側で自動的に連写し、それらを重ね合わせる(深度合成)ことで全体にピントの合った写真を撮影できるのです。
まぁ、、、失敗すると面白いことになりますけど。。。
深度合成中にタナゴが泳いだため、とんでもないことに(笑)。深度合成、動きのある被写体は苦手です。
TG-5はこの顕微鏡モード以外にも、防水性・耐久性などなど本当に便利すぎるカメラです。水族館に限らず野外撮影をすることの多い我々生き物好きならば、とりあえず持っていて間違いなく損のないカメラだと思います。
上の記事で廃版を嘆いたけど、現在は後継機種TG-6が発売中。
■少しだけ気をつけたい、水族館撮影での注意点。
「水族館ならではのマクロ撮影の使い方」みたいな話は、またそのうち作例も含めながら紹介するとして。
水族館でちょっとだけ気をつけたいマクロ撮影の注意点的なことを3つ、最後に書いておこうと思います。
① 被写体に近寄りすぎる
マクロ撮影=接写撮影なので仕方ないのですが、マクロ撮影しようとするとどうしても被写体との距離感が近くなります。
水族館での撮影の場合、魚種や個体によっては人間が近づいてくると警戒して物陰に逃げてしまう場合も往々にしてあり……。(逆にやたらとカメラに寄ってくる魚もいます。「なんだオマエ?!あっちいけオラオラ!」と威嚇しているのかもしれないけど)
「狙いの魚がいつも隠れてしまってうまく撮れない」なんて場合には、もういちど生き物たちとの距離感を意識しなおして、なるべく驚かせないようにアプローチする必要があるかもしれません。(なんにしても、最初からズカズカ近づいていくのではなく徐々に距離を詰めていくのがいいと思います。混んでいる水族館ではそうもいかないけど……)
また、ガラス面にレンズ先端をぶつけてしまうことがときどきあります。
レンズが壊れないか心配……という前に、水族館の水槽のことを考えてあげて!!
水族館の多くの水槽は固いガラスではなく柔らかいアクリル樹脂でできていて、特にレンズのフィルター枠(だいたい金属製)なんかぶつけると傷がついてしまいます。こういう細かい傷が増えると水槽面の透明度がだんだん落ちていって最終的には全交換(ウン百万円~)となりますし、アクリル面の傷は撮影する側にとっても有り難くないです。
これを防ぐには、レンズにラバーフードをつけるといいです。(こんなやつ)
柔らかいラバー製なので水槽のアクリル面を傷めませんし、レンズ側の保護にもなります。そして、アクリル面にぴったり密着させれば映り込みも防げます。数百円~千円ちょっとで買えるアイテムですし、持っていて損はありません。
「水族館撮影にはラバーフードを!!」と、声を大にして叫びたいです。
(自分もコレに気付くまではガンガンぶつけてたよなぁ……と、懺悔。)
② 飽きる
ここまでマクロ撮影を推しておいて身もフタもないのですが……いつも同じ生き物を同じような構図で接写していると、必然的に似たような写真が大量生産されてきます。
(仙台うみの杜水族館の淡水フグ、テトラオドン・ファハカ。いつも似たような写真撮ってる気がする……笑。まぁ成長記録だと思えばいいのか)
広角で撮る風景写真とかだと構図・切り取り方で個性も出せるのかもしれないですが、こういう魚のどアップ写真って実は誰が撮っても似たような写真になるのかもしれない……。
こういう撮り方が大好きなんですけど、今後どうやって個性を出していくか、個人的に少し悩んでいる部分でもあります。
③ 視野が狭くなりがち
最後に、マクロ撮影してるとどうしても被写体に入れ込んでしまって、視野が狭くなりがちです。すぐそばに他のお客さんがいるのに気付かず衝突したり、うっかり水槽前を長いこと独占してしまったり……ということも往々にして起こるので、被写体に集中しつつ周囲にも気を配りたいところですね。
というわけでマナーに気を付けつつ
マクロなカメラでミクロな世界を楽しみましょう!