いつかはこんな日が来るって、頭では分かっていたんだ。
■ついにあのサメが死んだ。
2020年12月15日。
仙台うみの杜水族館で最長飼育記録を更新中だったヨシキリザメが死んだ。
【仙台うみの杜水族館】残念なお知らせです
12/15、飼育展示しておりましたヨシキリザメが死亡いたしました。飼育期間は873日。その間、多くの方に鮮やかな青い姿を見せてくれました。支えてくださった関係者、ファンの皆さまに感謝申し上げます。#s_uminomori #ヨシキリザメ pic.twitter.com/Wmefx3lqs9— 仙台うみの杜水族館公式 (@sendaiuminomori) December 17, 2020
公式HP上では、死亡に至った経緯やこれまでの飼育経緯・成長の過程を詳しくリリース。
【以下公式リリースより抜粋】
「7月中旬より遊泳の乱れが多くみられるようになった」とのことで、これは実はぼくも気付いていました。
「定期的な血液検査 ⇒ 脱水症状がみられ、継続的に検査・治療を行っていた」とのこと。これも、最後にその生きた姿を見たときに治療らしき光景を目にしていました。(後述)
※水中に暮らしているのに脱水症状とはこれ如何に?!と思ってしまいそうですが、海水は塩分が濃いのでサメたちは尿素を再利用して浸透圧を調整しています。このあたり、具体的になにが体調不良の原因となったのか、貴重なデータが集積されていればいいなぁと思います。
飼育日数は873日で、これはもちろん国内最長飼育記録(海外ではどうなんだろう)。
約2年半の飼育期間で「体長51cm 体重345g」 ⇒ 「体長114cm 体重4,090g」まで成長したとのこと。
野生下での成長スピードがよく分かりませんが、体長で約2倍・体重は約10倍以上にまで成長していたというのは見た目ではなかなか分かりづらく、数字で知って正直驚きました。
■これまで撮らせてもらった写真を眺めつつ偲ぶ
このヨシキリザメ(個体No.25)が仙台うみの杜水族館にやってきたのは2018年7月27日。確か、3匹同時に搬入したうちの1匹だったかと記憶しています。
ぼくは当時ちょうど東京に転勤中だった(そして東京タワー水族館の閉館のバタバタに週末を費やしていた)ので、搬入直後の様子をリアルタイムでは見ることができず。
実際に現地へ足を運べたのは同年の12月。(おひとりさまナイト参戦時)
これがこの個体との初対面時の写真。このときはまさかこの個体がこんな偉業を達成するなんて想像していなかった。
全身を写していなかったのが悔やまれるけれど、どことなくあどけない顔つきをしているような気がします。実際、これまでに搬入された個体より小さくて「えっ、ちっさ。」って思った記憶が。
そして仙台に復帰した2019年。
ここから何度もその姿を拝ませてもらいました。
「今回も生きていてくれた!」と「行けばいつでも会えるよね」が入り混じった1年8カ月。
2019年4月。
葛西臨海水族園の持っていたかつての最長記録(246日)、そして仙台うみの杜水族館で2016年~2017年の間飼育されていた個体の最長記録(252日)を更新。
ここから「国内最長飼育記録のヨシキリザメ」としてのひとり旅が始まりました。
2019年5月。300日を突破。
「日本酒ナイト水族館」で美酒に酔っぱらいつつ、その姿を堪能しました。(イベント開催中はこの水槽の横にも地酒ブースが設けられていたので、イベント開始前に撮った一枚)
2019年6月。330日を突破。
「1年超え」の快挙達成の予感が、頭をよぎり始めたころ。
どうでもいいけど、この頃の写真は青っぽく撮るのがマイブームだったのだろうか。(この頃はJpegで撮影してたから、後から色調をあまりいじれなかったのです)
2019年7月。いよいよ「1年超え」も間近に。
この頃は、まさか3年近くまで生きるなんてもちろん誰も知らず、そして過去の飼育記録も250日前後で相次いで途切れているので、なんだかいちばんハラハラしながら見ていたような気がします。
2019年9月。400日を突破。
(夏休み中は混雑を避けたいのと自分もあちこち飛び回っており、「365日超え」と「400日超え」のタイミングでは足を運べず。。。)
この写真のように、壁にぶつからず水槽面と平行に器用に泳ぐ姿が記憶に残っています。
2019年11月。500日超えも目前。
この電光ボードは水槽脇にずっと設置されていて、刻まれた数字が大きくなればなるほど、存在感を増していくように感じました。
実際、ヨシキリザメのことをよく知らないお客さんでもこの掲示を見て「へぇ、飼育記録更新中だって!すごいんだね!」と口にする場面を何度も目にして、そのたびになぜかこっちまで誇らしいような気持ちになったものです。
2020年1月。
新しい年を迎え、そして500日という大台も突破。過去の飼育記録の2倍を超え、このあたりからいよいよ「大記録」という雰囲気が強くなった気がします。
個人的には、この写真のようにやや下側から水面をバックに撮影するとなんだか良いなー、と気付き始めた時期でした。ヨシキリザメがちょうどいい角度で泳いできてくれないと撮れないので、なかなか難しいのですが。
2020年2月。
まだコロナウイルスの話題がそこまで深刻ではなかったころ。
2020年3月上旬。
コロナの影響で遠征が難しくなってきて、うみの杜も空きはじめたころ。
そんな世の中の騒がしさとは無関係に、1日1日を刻むヨシキリザメ。600日超えもいよいよ間近。
2020年3月下旬。
新型コロナに対する警戒がどんどん高まるなか、ひっそりと600日超え。
2020年4月。
うみの杜はコロナ対策で4月は土日休館、そして4/18~5/17まで約1か月間の臨時休館となりました。その直前、平日に休みをとって訪問。
「しばらくのお別れ」というか、こういう繊細で飼育が難しい生き物の場合はいつなにがあってもおかしくないわけで、次に会いに来れるのはいつになるのか、そしてそのころまでしっかり生きていてくれるのか……。祈るような気持ちでその姿を見守りました。
2020年5月。長かった臨時休館がようやく解除に。
休館中にワニ(メガネカイマン)が天寿を全うするという訃報はあったものの、ヨシキリザメの方は無事に休館期間を乗り切ってくれました。
なんとなく泳ぎが不安定な印象も受けたのだけれど、それはずっと人のいない館内に慣れてしまったせいなのか、それとも体調不良の前兆だったのか。
ともあれ無事に泳ぐ姿を見せてくれたこと、そしてコロナ対策に追われながら毎日飼育管理を続けていたスタッフさんたちに、感謝の思いでいっぱいに。
2020年6月。
コロナ対策ばっちりの「おひとりさまナイト水族館」開催。コロナ前からこのイベントを続けてくれてて本当によかったなと思いました。
そんな中、ヨシキリザメも飼育日数700日を突破。いよいよ「2年超え」の大台が現実味を帯びてきました。
2020年7月。
ついについに、飼育開始から丸2年を突破。
(プライバシーに配慮し、画像の
一部を修整しています)
当日は記念イベントも開催され、地元メディアも取材に訪れていました。
レクチャーイベントの記念品としていただいたヨシキリザメの歯。ずっと大切にします。
レクチャーの内容もとても面白く、うみの杜公式YouTubeにも公開されていますのでぜひご覧ください。飼育の現場からしか分からない知見の数々、本当に有意義な時間でした。
(ぼくのイベントレポも載せておきますが、そっちはまぁどっちでもいいです笑)
2020年8月。
例年なら大混雑する夏休み期間もコロナ禍とあって比較的空いていて、何度か足を運ぶことができました。
ところでこの頃のヨシキリザメ、なんとなく目が白濁してしまっているように見えるのは気のせいでしょうか。
死亡後の公式リリースでも「7月中旬より遊泳の乱れが多く見られるようになった」とあり、実際この頃から一部の常連組の間でも「最近なんだかヨシキリさん心配だねぇ」という会話が、ちらほらあったように記憶しています。
(ほぼ毎日うみの杜に足を運んでいる知人の方がつぶさに観察されていて、ときどき情報交換をさせていただいていました。自分はせいぜい月に1~2回程度の訪問頻度なので、ほとんど教えてもらうばかりでしたが……。)
2020年9月。
相変わらずときどき不安定な泳ぎを見せながらも(それでも7月頃より落ち着いていた気がする)、1日1日と記録を更新中。
このときの写真(2枚目)が、自分が撮った中ではいちばん好きです。完全に、モデルのポーズ勝ち。
2020年10月。
上旬に800日超え。
下旬には「日本酒ナイト水族館」が開催され、長寿を祝して静かに一献傾けさせてもらいました。
■最後に見た光景。
結果的に最後の対面となった、2020年11月某日。
最終的な飼育記録が873日間なので、その3週間ほど前のこと。
一見するといつも通り泳いでいるように見えるのですが……。
ときどき身体を斜めに傾け、なんだか苦しそうな泳ぎ方に。
そしてついに、水槽の底に横たわってしまいました。
このときの衝撃(というかショック)は相当なものでした。
ヨシキリザメのような外洋性のサメは、「常に泳ぎ続けていないと死んでしまう」と言われています。(恐らく、泳ぎながら海水をエラに通すことで呼吸を促しているためと思われます)
なので素人目ながら「泳ぎを止めて底に横たわる」≒命の危険、ということを連想しました。
飼育スタッフさんも異変に気付いていたらしく、水槽の外で様子を見ながらバックヤード側と連絡を取りあっている模様。
やがて水槽の裏側から大きな網が入ってきて、すくい上げられるヨシキリザメ……。
この光景も一瞬「え、このまま回収されてしまうの?!」とびっくりしたのですが、、
すぐに担架状のビニールシートに覆われ(補定)、なにやら治療をしている模様。
その間、約7分間。
この光景にたまたま出くわした他のお客さんの多くが口々に「あれ、死んじまったのか??」などと言いながら眺めています。
思わず居たたまれない気持ちになり、余計なおせっかいとは知りつつ「あー、なんかあの中で治療か健康診断みたいなことしてるみたいですよー」とさりげなく伝えながら、固唾を飲んで見守っていました。
やがて治療らしき処置を終え、ふたたび水槽に戻されたヨシキリザメ。
ひとまず元気に泳ぎ始めたようで、こちらもなんとなくひと安心。
1日でも長く元気な姿を見せてほしい……そう思いながら帰路につきました。
ところでこの写真。
目の上側に、白い栓のようなものが見えるでしょうか。
ちょっと過去の画像(同じように右向きのもの)にさかのぼって見比べてほしいのですが、おそらく何らかの治療をした跡なんだろうな、と思います。
(7月に開催された飼育2周年記念レクチャー内でも、体調不良の状態に応じ抗菌剤や消炎剤を投与している、との話がありました)
そもそもこういう外洋性の生き物の治療ノウハウがある程度は確立されつつある、というのが、冷静に考えればすごい話です。
不穏な泳ぎを見せるヨシキリザメにショックを感じつつも、一方では「すげ~~、ああやって治療してるんだ……!」と感動しながら眺めていました。
■訃報とその後。
2020年12月16日。
ついに悲しい知らせが飛び込んできました。
それから数日後の週末。ヨシキリザメ水槽の前へ。
ずっと飼育記録日数を刻み続けてきた電光ボード。
公式HPや Twitter でも見た文面ではあるけれど、やっぱり現地で見たくなり。
現在はマンボウが展示されています。
正直、サメよりもマンボウのほうが多くのお客さんにとっては「ウケ」がいいらしく、「うわー、マンボウだ!すごいー!」という声がたくさん聞こえてきて、ちょっと複雑な気持ちになりつつ。
それでも「えっ、ここにいたサメ死んじゃったんだ……」という声もちらほら聞こえてきたりして。
そんな光景を眺めながら(あるいは耳にしながら)この水槽を眺め、在りし日のヨシキリザメの姿を思い出したりしつつ、つらつらと考えごと。
ヨシキリザメってよくも悪くも「典型的なサメっぽいサメ」なんですよね。
その繊細さや飼育の難しさを知らなければ「いたって普通のサメ」です。マンボウのほうがよっぽど見た目のインパクトがあって、「客ウケ」もよさそうです。
けれどこのヨシキリザメ「No.25」が最長飼育記録を更新し続けたことで、「ただの普通のサメ」が「日本記録更新中のサメ」として認知されるようになったのではないかなと。
(実際、うみの杜のあの水槽の前で「あー、サメだー」「え、待って、記録更新中だって。すごいんだねー」というような会話は何度も耳にしました)
ヨシキリザメが生きて泳いでいる姿なんて、よく考えたらなかなか見られるものではありません。(うみの杜地元勢、感覚が麻痺している説……。笑)
そして人間、実際に見たことのないものはどうしても縁遠く感じてしまうものです。
「生きたヨシキリザメが目の前を泳いでいること」
そして
「それと同じ魚が、身近な三陸の海に住んでいること」。
これからもそういうの、伝え続けてくれると嬉しいなぁ、と思います。
次なる挑戦(果たして更なる長期飼育を目指すのか、それとも複数飼育?あるいは他種混泳?)も楽しみにしています。
まずは、長きにわたり貴重な姿を見せていただき、本当にありがとうございました。