今年もアオリイカの季節がやってきた。
なーんて言って通じるのは一部のマニアだけでしょうか。
ともあれ、(一部の)水族館にイカ躍る季節が今年もやってきました。
(※なぜ毎年この初秋からの時期が「イカ躍る季節」なのか、詳細はまた後述。)
■今年の「初アオリイカ」!
9月某日。
仙台から少し足を伸ばして、秋田県・男鹿水族館GAOへ。
2階「日本の海水魚」コーナーに、現在アオリイカが展示されています。この記事を書こうと思ったきっかけは、その水槽前でのちょっとしたできごとから。
こちらがそのアオリイカ水槽。
この夏生まれ(※)のまだ小ぶりなアオリイカたちが、群れをなして泳いでいます。
※アオリイカの寿命は基本的に1年。アオリイカ以外の多くのイカの寿命も1年なのです。
この水槽前に佇んでしばらくイカ観察&撮影に興じながら、通りがかる他のお客さんの様子もさりげなく観察。(良くない癖とは思いつつも、ファインダー覗いてるといつもより聴覚が鋭敏になって、他のお客さんの会話がやたらとよく聞こえるのです)
まずやはり聞こえてくるのは、イカの透明感のある美しさへの賞賛。
「あ、イカだ~~!」
「ほんとだー!綺麗だねー!」
そして……たいていのお客さんは、そのまま次の水槽へ。
イカ水槽の滞在時間、およそ2分(当社調べ)。
そう。
確かにイカは綺麗です。
透明感のある美しさ。
魚とはちょっと違う、ふわふわとした浮遊感のある泳ぎ方。
けれどそれ以上でもそれ以下でもない(イカだけに)。
そしてなにより我々日本人にとっては「イカ=美味しい食材」。
イカのイメージって、そんなものかもしれません。
そう、「食事シーン」を見るまではね。
こちら、先ほどと同じアオリイカの食事シーンのひと幕。
まっ黒!!!
そしてガッチリと魚をくわえてる!!!
前置きが長くなりましたが、今回はそんなアオリイカのお話です。
※ちなみにこの男鹿水族館GAOのひと幕、ものの5分差くらいの出来事でした。
「通常時」の半透明なイカを見た人の薄~~いリアクションと、その数分後にエサやりタイムに遭遇した人の驚いたリアクションのギャップがとても興味深くて、そして同じ水族館の同じ水槽を見ているはずなのにわずかなタイミングの差でそれほどに感じ方が違うのだなぁ……というところに「水族館の楽しみ方」の奥深さを感じて、この記事を書こうと思ったのでした。
■イカの美しさに気付いた日。
自分があらためて「イカの美しさ」に気付いたのは、山形県・鶴岡市立加茂水族館(2020年1月訪問)。
文章では言い表せないので、当時の写真で振り返ります。
「イカは綺麗」って漠然とは思ってたけど、なにこの光り輝く生き物……。
水槽が黒バックなのもあってめっちゃ映える……。
思わずめいっぱい接写で撮影。
体表の色素胞がめちゃくちゃ美しい……。(これが収縮することで瞬時に体色が変わるのです)
このときは「イカってめっちゃ綺麗じゃん……」とただただ感動して帰ってきたのですが、翌シーズン(2020年12月)にはアオリイカの貴重な食事シーンに出会うことができました!
その前に、こちらがエサやりタイム前のアオリイカ。
やっぱり、一般的な「綺麗なイカ」のイメージってこんな感じですよね。もちろんこれはこれで綺麗ですし、かわいいです。
それが、エサやりタイムが始まるとまったく違う姿を見せてくれます!
腕足(イカの足、いわゆるイカゲソ)でしっかりとエサのアジを抱えこむアオリイカ。両サイドに伸びた2本の長い足は「触腕」といって、獲物を捕らえるためのもの。
それよりもこの体色!
興奮すると、黄色と黒と白がいりまじった派手なまだら模様に変化します。
白くなったり。
黒くなったり。
ちなみにエサの小魚を食べるときは丸呑みではなく、足のつけ根にある歯で少しずつかじって平らげていきます。けっこう時間をかけて食事する生物なので、その分じっくり魅入ってしまいます。
実は、アオリイカの食事シーンを見たのはこのときが初めてでした。
「イカのエサやりタイム」は特にイベントとなっている訳でもなく、もちろん事前予告もなく、突然に始まりました。偶々立ち会うことができてラッキー!!
ところで、このとき訪問した加茂水族館は世界一の種数を誇るクラゲ展示で有名。
イカとクラゲって漠然となんとなく似ている生き物のように思いますが、改めて見比べるとぜんぜん違う生き物だなぁと感じます。(分類学的にもだいぶ離れていて云々、という話は別として)
クラゲは基本的に水流に流されて漂っている生物(大型プランクトン)ですが、イカはエサの時間になるととんでもなく俊敏な動きを見せたり、仲間同士でケンカをしたり。
「クラゲを見ていると癒される」というのとはまた別で、イカの行動からは目が離せません。
さて、そんな「アオリイカの食事シーン」の魅力に魅せられ、その後に加茂水族館を再訪問した際には、イカのエサやりが始まるのを密かに待ってしまいました。
(※事前予告はありません。なんとなくですが、夕方にかけての時間が多いような気がします)(本当は予告してほしいところですが、コロナ対策もあり1つの水槽に観客が集中するのは避けているのかもしれません)
相変わらず、興奮してスゴい色になってるアオリイカ。
小魚の首根っこに食らいつき、そこから固くて食べづらい頭を切り落として、胴体の柔らかいところだけをムシャムシャとかじっていきます。(よく見ていると食べ方にも個体差があるようで、面白いです)
イカがどうしてこんなに貪欲かというと、先ほども書いた通りイカの寿命は基本的に1年です。1年で成長し産卵して死んでいきます。そのため、とにかくせっせと食事をして短期間でどんどん成長する、そういう生き物のようです。
その貪欲さゆえ、時にはこんなシーンも。
1匹のアジに、同時にかぶりつく2匹のアオリイカ。
しばらくは2匹とも1歩も譲らず。「がっぷり四つ」状態が続きます。
やがて一方が根負けし、無事にエサにありついた勝者(?)のイカ。
写真だけではなかなか伝わりにくいかもしれませんので、動画でもご紹介。食べにくいアジの頭を切り落とすところまで、しっかり収められています。ぜひご覧ください!
(動画提供:イカ・タコLIFEさん)
■秋の終わりから始まるアオリイカ展示。
こちらは、青森県・浅虫水族館。
(東北エリアでは、浅虫水族館・男鹿水族館GAO・鶴岡市立加茂水族館でほぼ毎年アオリイカを展示しています ※年により例外あり)
このときは9月中旬ごろに浅虫水族館を訪問。
アオリイカはだいたい春~夏にかけて産卵し、夏~秋のはじめにかけてまだ小さい幼イカが浅場の磯で見られます(地域によって多少前後します)。
そのため、夏の終わり~初秋くらいからアオリイカ展示をスタートする水族館が多いです。
※コウイカやヤリイカなど、イカの種類によって産卵期が異なります。それを利用して少しずつ時期をずらし、1年中なにかしらの種類のイカを展示している水族館もあります。(新潟県:うみがたりなど)
このとき(2020年9月)泳いでいたのも、まだ小さめサイズの若イカたち。
隊列をなすように水中に浮かぶ姿がかわいらしいです。(とはいえその貪欲さゆえ、けっこう共食いしてしまうことも多いのだとか)
大きく育った姿もいいけど、これくらいの若イカの機敏な動きがとても好きです。
接写してみるとこの通り!
まだ小さめの個体とはいえ、色素胞の美しさは変わりません!
※イカの色素胞について、詳しくはこちらの解説動画を!
(動画提供:イカ・タコLIFEさん)
■春~初夏。生命を繋ぐイカたちの最後の輝き。
「アオリイカシーズン」初めの躍動感ある若イカ(夏~秋)もいいですが、翌春~初夏にかけて見られる成熟したイカたちの生命の営みは荘厳です。
こちらは新潟県上越市の水族館「うみがたり」。
イカの展示にかなり力を入れている水族館です。
アオリイカたちが泳ぐのは、半円柱状になったこちらの水槽。(2021年6月訪問)
秋口にみられる若イカと比べると格段に大きく立派です。40~50cm近くあるでしょうか。
1年でここまで成長するのだと思うと、あの貪欲さも理解できます。
この水槽には、なんとイカの卵が。
ネット状の産卵床に産みつけられた白い物体が、イカの卵嚢です。
見ている間にも、おそらくペアと思われる個体(右手前の派手な模様のほうが恐らくオス)がやってきて、産卵床を物色。残念ながら、見ている前では実際に産卵してはくれませんでした。
水槽内のそこここに、イカのペアが何組も。
オスのイカはしっかりと相手のメスのイカに寄り添っています。(ほかのオスに奪われないよう、必死でガードしています)
あっちでも、こっちでも。
産卵が終わると、親イカたちは寿命を迎えます。(卵を守ることはしません)
1年をかけて立派に育ったイカたちの、最後の輝き……。
■この秋は、水族館にイカを見にイカないか?
先ほども書いた通り、この美しいアオリイカ展示が始まるのはちょうど秋の初めのこのシーズン。水族館にもよりますが、産卵期を迎える翌年の春~初夏くらいまで展示を継続していることが多いようです。
【参考:2021年(秋~冬) アオリイカを展示していると思われる水族館】
・浅虫水族館(青森県)
・男鹿水族館GAO(秋田県)
・加茂水族館(山形県)
・アクアマリンふくしま(福島県)
・マリンピア日本海(新潟県)
・うみがたり(新潟県)
・葛西臨海水族園(東京都)
・サンシャイン水族館(東京都)
・名古屋港水族館(愛知県)
・城崎マリンワールド(兵庫県)
・アクアス(島根県)
※飼育の難しい生物のため、最新の展示状況は随時変わるものと思われます
※これ以外の水族館でも展示している/これから展示を開始するところはあると思われます
1日数時間の開館時間のなかで、この迫力ある食事シーンが観察できるのは10分~せいぜい30分くらい。「運任せ」な要素が強いです。
けれど1つ1つの水槽をなるべくじっくり眺めることで、こういう面白いシーンと巡り合える可能性がぐーんと高くなるので……。できれば「あ、イカだねー」とスルーせずに、ほんの数分ずつでも水槽前で足を止めると良き、なんだよなぁ。
(さらにワガママを言うと、それと同時に、できれば「だいたい○時くらいから**のエサやりタイムです!」と掲示していただけると嬉しいのです……。今はコロナ対策で、1か所に人が集まるやり方は難しいのだとも思いますが。)
今年の秋はぜひこの美しいアオリイカの姿(特に食事シーン)を見に、そして翌春までその成長を見届けに、水族館へ通ってみませんか?!いや、通ってみなイカ??!!