さて、前回もお届けしたすみだ水族館の『自然水景』(ADA水槽)。
実はこのゾーンに、ずっと昔から気になり続けている魚がいるのです。今回、ようやくそれらしい種類を知ることができました。数年越しの謎が(たぶん)解けて、ちょっとスッキリ。
※同じ魚の写真しか出てこないけど、許してください。
■記憶してる限り、最初に気付いたのは2014年。
1)2014年
ぼくが、最初にこの魚に気付いたのは2014年6月。
こいつ。2㎝から3㎝くらいの小さな体で、グロッソスティグマの茂みを見え隠れ。当時は同じような場所を住処にするシクリッド(ラミレジィとトーマシィ)が同居していたので、肩身狭そうに少しだけ姿を見せてくれました。
当時見たときから「なんだコイツ?!」と謎に思っていて、当時のブログ(このサイトの前身)でも少しだけネタにしています。
その時の直感は「バディス・バディスかバディス・シアメンシス??でもなんだか違うなぁ」。なにか他の魚の「混じり」で入ってきて、飼育スタッフの方も存在に気が付いてないのでは??とも思いました。
2)2015年
2015年12月の訪問時。当時は仙台に住んでいたので、すみだ水自体に1年半ぶりに行ったのだけれど、やっぱりこの魚のことは気になっていてしっかり写真を撮っていました。
あまりに気になるので後々、Twitterにも投げてみたのですが、それらしい有力情報は得られず。(まず間違いなくバディスの仲間だろう、というところまでは推測したものの、そもそもバディス類って未だにときどき新種が見つかるようなマイナーな熱帯魚たちでもあり、有力な文献もネット情報も得られないまま手詰まりに。。)
#どこかわかったら超水族館通
本題からは外れますが、この魚がなにか未だに分からずにいます。 pic.twitter.com/NC5Uioekup— RA's Aqua ~水族館で魚を撮ろう~ (@RA_aquapicture) June 12, 2017
3)2017年
さらに約1年半の時が流れて2017年6月。
このときはメイン機の一眼レフ(NIKON D7000)を使えず、買ったばかりのオリンパスTG-5で撮影。なんだか前に撮った個体よりも若い個体のように見えますし、以前より個体数も増えたようでした。
そしてこのころには、以前は同居していたシクリッド(ラミレジィ&トーマシィ)は別水槽に移され、水槽の底近くを泳ぐのはこの魚だけに。「もしかして水槽内で繁殖しているのでは?」という推測をしました。
水槽内で殖えているのだとすると、いわゆる「混じり」ではなく、おそらく飼育スタッフさんもこの魚の存在に気付いているのかもしれません。水槽内での生活エリアが重複する(そしてこの魚より図体の大きい)シクリッドたちを水槽から取り出したのも、もしかするとこの魚を優先的に繁殖させるためなのでは??
そんな疑問を抱きつつ、水族館でなかなか飼育スタッフさんに声をかけられないヒネクレた性格が災いし、悶々とし続けていました。
4)2018年
さらに時は流れて2018年。東京に転居してきたこともあり、すみだ水族館にも前より気軽に足を運ぶ環境が整いました!
2018年6月、久々のすみだで、やっぱりこの魚探し。
このときは、明らかにサイズの違う個体を複数撮影することができました!やはり、この水槽内で繁殖している(か、飼育スタッフさんが若い個体を補充している?)ことを、ほぼ確信しました。
サイズの大きい(といっても3~3.5cmくらい)、成魚と思われる個体。体つきがガッシリしていて、各ヒレも青く染まって綺麗。
上の個体より明らかに小さな個体。背骨が透けて見えるくらい、体つきも華奢。これくらいのサイズの個体が何匹もチロチロ泳いでいて、水槽内で生まれた幼魚なのでは、と思いました。
「すみだは……この魚を意図的に飼育・展示しているッ!!」
(それはともかく、種類はやっぱり分からないんですけれどね。。。)
5)2019年
それでもって、昨日(2019年1月13日)。
ふらっと遊びに行ったすみだ水族館(現在、自宅からいちばん近い水族館です)で、もはや「いることが当たり前」になったこの魚を、さりげなく撮影。
もはや自分の中で、正体不明の「バディス sp.」。もしかして未記載種なんじゃないの、とも思いつつ、ここに来れば必ず見られるので「安定のバディス sp.」って存在になってました。
この日撮影したのも珍しいからというより「自分より大きいヤマトヌマエビに襲いかかる様子」が面白かった、から。そんで、そのままツイート。
すみだの水草水槽の謎バディス、自分よりデカいヤマトヌマエビをけっこう執拗に追いかけ回してた。「ADAの綺麗な水草水槽」、もちろんまったりと遠くから眺めて癒されるのもいいんだけど、水草の茂みのなかで見せる魚たちの営みをよーく探して見つけると、楽しさが倍増します。#すみだ水族館 pic.twitter.com/h1kSI6UTca
— RA's Aqua ~水族館で魚を撮ろう~ (@RA_aquapicture) January 13, 2019
■Twitterきっかけで!ついにそれらしい魚が判明!
上のツイートを投稿後しばらくして、あるフォロワーさんよりリプライ(返信)をいただきました。それによるとこの魚は「バディス・ソラヤ」(Badis soraya)という魚種ではないか、とのこと。
バジス・ソラヤですね!4年くらい前に新種登録された新しいやつです。水草メイン水槽ながら魚も味のある選出をしてくる辺りはさすがですね……
— Sei (@Seiyanokurage) January 13, 2019
!!!
4年半ものあいだ気になっていた魚の正体が、ついに!!?
さっそく、WEBでこの「バディス・ソラヤ」という魚のことを調べてみました。(家にある魚の図鑑や約20年分のアクア雑誌は、既にすべて調べ尽くしています)
まずは、世界中の魚類のことが恐らくもっともよく纏まったポータルサイト「Fish Base」。
確かに、種としては記載されています。ただ、肝心の写真がありません。とりあえず、学名の由来が古代ペルシャの神様かなにかに由来することと、インド・ベンガルのLish川というところに分布する魚だ、ということは分かりました。
それ以外で検索に引っかかったのは、熱帯魚(観賞魚)の通販サイト。どうやら、既に観賞用に日本にも輸入されている魚のようです。あくまでホビーレベルですが、それらのサイトに「バディス・ソラヤ」として掲載されている魚の写真は、ここ数年来すみだ水族館で目にしてきた魚とよく似ています。
本当の意味で(学術的な意味で)この魚の正体を突き止めるためには、まず原記載論文(Stefano Valdesalici というイタリアの学者と、Stefan van der Voortというオランダの学者が2015年に書いた論文のようです)を入手し、そこに記載されている形態的な特徴とすみだ水族館で泳いでいる魚の特徴(鰭の棘の数だとか鱗の枚数などなど)とを照合してやる必要があります。けれど、水族館で展示されている魚をぼくのようなタダの「魚好きな客」が「調べたいから標本にしてぼくにちょうだい」というわけにもいきません。
ともあれ、数年来ずっと気になっていた魚の正体がなんとなく掴めたので、ようやくスッキリした気持ちです。「Badis soraya」という、これまで知らなかった魚を知ることができたのも嬉しい限りです。
ところで、この「Badis soraya」、上に書いた通り正式に種として記載されたのは2015年。2014年にすみだで初めてその姿を目にしたときは、正真正銘、まだ種類が分かっていない「Badis sp.」(バディス属の一種)だったのですねぇ。ぼくがすみだ水族館で悶々とし続けている間に、ヨーロッパの学者さんたちがきちんと調べて新種として記載してくれていた、という訳で、理由はないですがなんとなく感慨深いものがあります。
(ちなみに、この魚に限らず観賞魚として原産地から輸入されてくる魚の場合は、分類が定まる前にテキトーな通称がついて流通してしまうということも、ままあることだったりします。)